9/1/2000 夏の終わり。海辺の街に来ています

 この週末から月曜にかけて、アメリカは三連休。月曜日はレイバーデーLabor day、つまり「労働者の日」と呼ばれる祝日で、この日を境に夏から秋へと季節は変わる。9月が進入学の季節であるアメリカでは、長い夏休み最後の三連休を家族で過ごしたあと、「Back to School」の声高く、子供や学生たちが学校に戻るのである。

 今週は、私がワシントンDCに来ていたこともあり、この近くで週末を過ごそうということになった。DC西部のヴァージニア州、東部のメリーランド州、両州ともに、自然を楽しめる場所がいっぱいある。ヴァージニア州峡谷と森のシェナンドア国立公園に行こうかとも考えたが、数カ月前イエローストーン国立公園に行ったばかりなので、今回は海に行くことにした。

 早めに仕事を切り上げて帰っきたA男と、2泊3日分の荷物をまとめて、車に積み込む。時計は6時過ぎを指している。せめて9時には到着して、おいしいカニでも食べに行きたいものだ。そう。メリーランド州はブルークラブ(Blue Crab)と呼ばれるカニで有名なのだ。それに、クラブケーキ(Crab cake)と呼ばれるカニ肉のコロッケ風料理の本場でもある。

 私達が目指しているのは、正確には海辺ではなく、「湾辺」。ヴァージニア州とメリーランド州の間に南北に横たわるチェサピーク湾に、いくつもの小さなビーチリゾートが点在しているのだ。今回の旅はA男がコーディネートしたので、私は「のんびりできる海辺ならどこでもいい」という受け身の姿勢。

 ワシントンDCの市街を通過し、どんどん東へ走る。やがてチェサピーク湾にかかるベイブリッジに差しかかる。この橋のなんと大きく清々しいことか。カモメが飛び交う夕暮れの湾の上を、走り抜けるこの爽快さ。

 対岸、つまりメリーランド州に入り、1時間程北上し、この小さな小さな港町、ロック・ホールにたどり着いた。

 アンティークショップ、アイスクリームショップ、ブティック、そして雑貨店などが10軒ばかり軒を連ねる、小さな小さな繁華街「メインストリート」にある民宿が私たちの宿。アンティークショップを経営しているゲイのカップル(多分)が、2階を宿にしているという塩梅だ。部屋にはキッチンも付いていて、長期滞在もできるような雰囲気。部屋のインテリアはいま一つだけど、こんなにかわいい石鹸がちょこんと置いてあったり(タイから輸入されたものらしい)、

 

 コーヒーやティーバッグなどが添えられているなど、小さな心配りが感じられる部屋だ。

 夕食は、何といってもカニ。店のオーナーに勧められた「Water Man's Crab House」へ行くことにした。ハーバーにあるその店では、観光客や土地の人たちが入り交じってのたいへんな賑わい。ハーバーを眺められるテラスでは、往年のポピュラーソングを奏でるバンドに合わせて、カップルたちが踊っている。

 まずはビールで乾杯した後、オイスターのフライ、そしてカニをオーダー。カニはスモールの場合1ダース(12匹)15ドル、ラージだと30ドル。二人でラージは無理だろうからと、スモールをオーダー。それがこれである。

 とにかく、「ひたすら食べろ」という雰囲気の店で、別にお洒落でもなんでもないから、こうしてトレーの上に茹で上がって塩とスパイスがまぶされたカニが、どさっと運ばれてくるのだ。小さな木槌がついてきて、それで叩き割って食べる。

 カニは甘味のある身が詰まっていてなかなかおいしいものだった。小さいものより大きい方が味が濃くていい。カニみそも大きい方がたっぷり入っていてコクがある。人数が多ければラージを頼む方がいいだろう。ひたすら無口に、私たちは各々カニと向き合った。

 驚く程に無数の星が煌めく空の下、ほっそりとした三日月を眺めながら宿に戻った。

 明日は何をしようかな。


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