7/13/2000 嘆かわしいこと

 なにしろMuse Publishing, Inc. は極小企業だから、人手が足りない。とはいえ、アメリカで日本人を雇用するには、就労ビザのスポンサーになる必要もあるなど、面倒が多い。新卒者を一から教育する時間的にも経済的にも余裕がないから、結局は自分でドタバタとこなすことになる。

 プロジェクトの予算や内容によっては、デザインや写真などを外注している。しかしながら、そもそも私自身が「制作側」の人間なので、「営業」がどうしてもおろそかになってしまう。

 弊社の仕事は、フライヤーやカタログなど印刷物の制作や雑誌の取材、コーディネーション、広告の制作などが主で、その売り上げから自費出版ならぬ「社費出版」でmuse new yorkを発行している。かなり趣味の領域である。発行開始から丸1年を迎え、唯一の資金源である広告も少しずつ増え始めた。とはいえ、取り立てて広告営業を行っていないので、採算はまだまだ合わない。

 それでも、自分の会社の出版物があるということは、ささやかながらも「拠り所」のような安心感があり、また会社の名刺代わりにもなり、いいものである。

 前置きが長くなったが、このmuse new yorkをもっと充実させるためには、やはり広告をたくさん取って資金を集める必要があると痛感し、OCSニュースというニューヨークで発行されている新聞に求人広告を出した。以下がそれである。

●広告営業スタッフ募集●
コミッション制/経験不問
Muse Publishing, Inc.
212-581-7784 Sakata

 一日に数回、電話がかかってくる。履歴書を送ってもらうより、電話での話し方で、だいたい仕事をお願いできる人かどうかが、即、判断が付く。とにかく、若い男性のとんちんかんな電話のかけ方には驚かされるばかりだ。自分を名乗る人もまずいない。

ここに会話例をあげてみよう。

●20代くらいの男性

- Hello, Muse Publishing
「Do you speak Japanese?」(いきなりコレである)

- Yes, I do......もしもし?
「あのお、OCS見たんですけど……」(しばし沈黙)

- 求人の件ですか?
「あ、そうです……。あの、まだパートとか雇ってますか?」

- パート? あの、広告営業の募集の件でお電話いただいているんですよね。
「あ、ハイハイハイハイ」(ハイは1回でよろしい!)

- muse new yorkという冊子をご存じですか?
「え〜、ハイハイハイハイ」(……!)

- 失礼ですが、どのようなステイタスのビザをお持ちですか?
「学生ビザですけど……」

-----このあといくつかのやりとりのあと、お断りした。

 

●やはり20代くらいの男性

- Hello, Muse Publishing
「あの、そちらで仕事したいんですけど」
(またもや、いきなりである)

- あの、失礼ですが、求人広告をご覧になったんでしょうか?
「あ、そうです」

----このあといくつかのやりとりのあと、お断りした。

 

 文章にすると、さほど悲壮感が現れないが、声のトーンも緊張感がなく、まるで友達と話している感じ。とにかくこんな電話を受けていると、本当に情けなくなってくる。普通、仕事を探しているのだったら、せめて相手に好印象を与えようと若干の努力をするものではあるまいか。なにも難しいことを言っているわけではない。せめてきちんとした日本語を話すふりくらいしてもいいだろう。

 「OCSニュースで御社の求人広告を見てお電話しております。**と申しますが、ご担当のSakata様をお願いいたします」

 せめて、これくらいは言ってほしい。そりゃあ、極小企業だからほとんどの電話は私が出るけれども、大きい会社だったらそうはいかない。まずは担当者につないでもらうべきだろう。

 アメリカに住んでいる若造がこうなのか、それとも日本でも同じなのか。仕事をしたいんだったら、もうちょっと頭を回転させて、せめて電話での話し方くらいまともにしなさい、と私は声を大にして言いたい。 


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