5/28/2000 矢野顕子さんのライブ ソニーミュージックグループの会社に勤める知人から矢野顕子さんのライブに招待された。 場所は、日本人の若者たちがたくさん住んでいるエリア、イーストビレッジにあるライブハウスだ。ダウンタウンには、ドリンクや軽い食事をとりながらミュージックを楽しめるライブハウスがたくさんある。ライブハウスによって、ジャズやラテン、ポップス、ブルースなど音楽のジャンルや、出演するミュージシャンのクラス(アマチュアかプロかなど)も異なるが、いずれのライブハウスも雰囲気、料金共に気軽なのが魅力だ。「わ! こんなミュージシャンが」「え! こんな小さなライブハウスで?」というようなことも少なくない。 さて、開場が8時30分だったので、その前に早めに食事をとろうとA男と待ち合わせていたのだが、仕事の打ち合わせが長引き、イーストビレッジに到着したのは8時。しかし、空腹時は何も手に付かなくなる、集中できなくなる、いたって不機嫌になる私たちは、ライブハウスの近くにあるベルギー料理のレストランBELGOに駆け込んだ。テーブル席はいっぱいだったので、カウンターに席をとる。甘酸っぱいストロベリーのビールで喉を潤し、大鍋いっぱいのムール貝とフライドポテトを急いで平らげる。 ライブハウスでのコンサートだから、人々が談笑していたりして気軽な雰囲気なのかと想像していたのだが、さにあらず。開場から20分ほど遅れて入ったら、すでにライブハウスは満杯で、矢野さんの歌声が響き渡っていた。観客は水を打ったようにしんと静まり返って音楽に聴き入っている。 今から16年前、「オーエス、オーエス」という彼女のLPを買ったことがあった。独特の声と独特の詩は、今でも耳にくっきりと残っている。 それにしても。月日を経てなお変わらない、いや、より艶と輝きを増した彼女の声に驚いた。張りのある歌声からエネルギーがほとばしっている。そして日本語英語ともに「言葉が流暢」だ。するすると滑るような語り口調が印象的だった。そして何より、とても楽しそうにピアノを弾き、歌っている。 GREENFIELDSという、オーエス、オーエスに入っていた曲を聴いているときには、メロディーと共に懐かしい日々が蘇ってきて、目頭が熱くなってしまった。 同じ事務所の奥田民生さんの曲「さすらい」を最後に歌ったのだが、これがまたよかった。なにしろ詩がすばらしい。今度、彼のCDを買ってしっかり聴きたいと思ったくらいだ。あと、アンコールの後に歌ってくれた、日本の民謡「おぼろ月夜」もよかった。菜の花畑に入り日薄れ〜♪ という曲である。これもまた、私の好きな歌なので、泣けてきた。いい音楽を耳にするということは、本当に幸せなことだなあと思う。 ニューヨークで見られる日本語放送の一つにHEY HEY
HEYがある。番組に登場する今をときめくミュージシャンの多くは、歌がへたくそで、呆気にとられること山のごとし。蒙古だかモー娘だか知らないが、やったら音痴なグループをはじめ、聞いて驚く下手な歌が次々に流れてくる。歌詞も激しくださいものが多い。なぜだろう。昔はこんなふうじゃなかったよね……。 たまに、実力派のミュージシャンがでてくると本当に安心する。 久しぶりに、心にしみる日本語の歌詞、きれいなメロディー、美しい歌声の三拍子が揃った音楽を聴くことができてうれしかった。非日本人のA男も、矢野さんの英語による語りといくつかの英語の歌詞による曲を聴いて、いい音楽だったと喜んでいた。