5/10/2000 怒り、そしてショック muse new york
Vol.4の印刷工程を確認するため、マンハッタンから地下鉄で40分ほどの郊外にある印刷所へ出かけた。中国人女性がオーナー(多分50代)で、甥がマネージャー(多分30代)をやっている、親族経営の印刷所だ。機材は旧式だが、カラー印刷もきれいに仕上げてくれるし、何より値段が安いから、クライアントの仕事もその印刷所を利用している。 本当は、昨日、印刷される予定だったので、地下鉄を乗り継いで時間通りに到着した。印刷は丸一日かかるので、打ち合わせなどは翌日以降に予定を入れていた。 ところがである。印刷所に着くなり、甥のマネージャー(仮にマイクとしておこう)がやってきて言うのだ。 「ミホ、印刷に使う紙は60ポンドのだったよね。いや、さっき気がついたんだけど、手違いで50ポンドの紙しかないから、今日は印刷できないよ」 これが初めてのミスなら仕方あるまい。これまで弊社創立以来2年余り。何度、この印刷所に無駄足を運んだことか。 「ミホ、僕はちゃんとオーダーしたんだけど、紙の業者が間違った紙を配達してきたんだよ」 「薄いブルーの紙は切らしたから、かわりにグリーンの紙で印刷してもいいかな、余ってるし」 そんなトラブルがあるたびに、私はこみ上げる怒りを抑え、「なぜ? あれほど念を押したじゃないのよ!」と詰問する。しかしマイクは絶対に、謝らない。 アメリカ人が謝らないとよく言うけれど、むやみに謝罪しないだけであって、本当に自分が悪いと感じたときには謝るものである。 「えいくそ!」と心で叫びつつも感情を押し殺して、「わかったよ、明日また来るわよ。 でも、私だって暇じゃないんだからね」そういいつつ、来た道を鼻の穴を膨らませつつ戻るのである。「ああ、早く別の印刷所を見つけなきゃ」とそのたびに心に誓うのだが、その印刷所はなにしろクオリティも悪くなく、安いから、なんとも離れがたいのも事実なのだ。 マイクは絶対に謝らないけれど、悪いな、と思っている様子が何となく見て取れるので、憎めないのもまた、事実である。それに、現場のおじさん(中国系ベトナム人)たちも、私の細かくしつこい指摘に慣れて、できるだけいい物を仕上げてくれる努力をしてくれる。 さて翌日、つまり今日、改めて印刷所へ出かけた。muse new
yorkは現在16ページだから、4ページずつ4回にわけて印刷する。小さい工場なので、一つの印刷が終了するのを待たねばならないのだ。3回が無事に終わり、さて、最後の1回になって刷り上がりをチェックするや、愕然とする。 スペイン料理のパエーリャの写真が入れ替わってる!なぜなぜ! ちゃんと確認したはずなのに、なんで違う写真がこんなところにあるの????!!!! いきなり輪転機を止めてもらい、しばし呆然とする。 印刷の工程を簡単に説明すると、 1. 編集ソフトと画像ソフトを使ってコンピュータ上でレイアウトする どうやら2の段階で、画像を取り込み直した際、違う写真に入れ替わってしまったようなのだ。滅多にないミスなのだが、写真を保存する際に似た名前の物を二つ作っていたのが間違いの原因だったようだ。フィルムはネガで出力されるので、全体に黒いため、写真の違いを見落としていたのだ。情けないやら悔しいやら、もう、いや! という気分に襲われつつも、なんとかせねばならない。 結局、間違った写真を入れるくらいなら取ってしまえ、ということで、別室の製版部門(といってもこぢんまりとしたところ)にフィルムを持っていき、担当のお姉さんに写真を切り抜いてもらった。 ああ、せっかく気に入ったレイアウトだったのに、なんだか間抜けな空間ができてしまってショックである。別に間違っているわけではないけれど、かっこ悪い。 昨日は怒りにふるえ、態度のでかい私だったが、今日は一転して、「ごめんマイク、フィルム修正してくれない?」と頼み込まざるを得ない情けない奴だった。こういうのって、やはり持ちつ持たれつなのよね、我慢しなくちゃね、なんてちょっと反省もした。熱しやすく冷めやすいのである。 帰り際、オーナーのおばさんが駆け寄ってきた。 「大丈夫、気にしないで」とすっかりしおらしい私。 7ページの真ん中辺りが、やけにがらんとしているのは、パエーリャの写真がなくなったからです。わざわざ友達を誘って食べに行き、魚介類たっぷりのおいしそうな写真も撮ったのに……。返す返すも悔しい。 せっかくなので、後日ホームページに掲載します。
2. レイアウトしたデータを、日本語出力が可能な出力センターに持っていき、フィルム(ネガ)を出力してもらう
3. フィルムに出力した段階で、文字化けなどがないか確認する
4. 印刷所にフィルムを納品する
5. 印刷所でフィルムをプレート(薄い鉄板)に焼き付け、輪転機に装着する
6. 輪転機を回して印刷する
「ミホ、昨日はごめんね。またマイクが間違ったんでしょ。彼にはきつく言っておいたから。スケジュールは大丈夫?」と優しい言葉をかけてくれる。