坂田マルハン美穂のカリフォルニア通信 Vol. 138 7/7/2005 |
●この国の広さを肌で感じた。アメリカ大陸横断4000マイル・ドライヴ 今、カリフォルニアのサニーヴェールの我が家の書斎で、コンピュータに向かっています。窓に面した場所に机を置いているので、モニター越しに、鮮やかな緑の街路樹、その向こうには椰子の木、彼方には連なる山脈が見渡せます。 雲一つない青空に向かって、今、サンノゼ空港から離陸した飛行機が飛び立っていくのも見えます。想像していたよりも遥かに居心地のいい場所で、もうすっかりカリフォルニアンな気分です。
●この国の広さを肌で感じた。アメリカ大陸横断4000マイル・ドライヴ 6月13日にワシントンDCを出発したわたしたちは、2週間かけてアメリカ大陸を横断ドライヴした。予定通り、東半分は主に突っ走り、西に入ってから、サンタフェやモニュメントヴァレー、グランドキャニオン、セドナ、ルート66、ラスヴェガスなどに立ち寄りながらの旅。走行距離は約4000マイル、6400キロに及んだ。 A男がワシントンDCでの就職が決まった2000年に購入した愛車、HONDA ACCORDは、彼が初心者当時に作った傷が随所にあるものの、これまで何らトラブルなく動いてくれていた。 今回、旅行前に点検に出し、部品の交換などをすませていたこともあり、多めの荷物を積み込まれ、強烈な日差しに何度も「サウナ化」させられながらも、つつがなく走り終えてくれた。この車がわたしたちと一緒にここにあることが、「大陸を横切ってきたのだ」という実感を高めてくれる。 引っ越し前の慌ただしさに紛れて、きちんとした計画を立てぬまま旅立ったものの、予想以上に濃く、有意義な経験を重ねることができた。この国に住んで9年。こうして14の州を走り抜け、見知らぬ土地の空気に触れられる機会が持てたのは、本当に幸運だった。 知れば知るほどに、我が身のほどをも知り、まだ見ぬ世界への好奇心が沸き上がってくる思いだ。 旅の最中から、ホームページに紀行をレポートし始めた。現在も少しずつ更新中で、来週中には完成させる予定。相変わらず写真を交えたボリュームたっぷりの内容だが、ぜひ読んでいただければと思う。
●新たな拠点ベイエリア。わたしたちの新居とその界隈 カリフォルニア州は太平洋に面して南北に伸びる細長い州だ。その中ほど、やや北側にサンフランシスコがあり、南部にロサンゼルスが、そしてぐっと南のメキシコ国境付近にサンディエゴがある。 わたしたちが今回移り住んだのは、サンフランシスコを中心とした一帯、通称ベイエリアと呼ばれる場所の南部にあるサニーヴェール(SUNNYVALE)というシティ。ここからサンフランシスコまでは車で約1時間だ。近所にあるCal Trainのサニーヴェール駅からも、やはり1時間ほどでサンフランシスコに行ける。 サンノゼを中心に、サンタクララ、サニーヴェール、パロアルト、メンロパークといったこの近辺のシティは、通称シリコンヴァレーと呼ばれている。衆知の通り、数多くのハイテク企業やヴェンチャーキャピタルファーム(投資会社)が、このシリコンヴァレーに集まっている。 集まっている、とはいうものの、例えば東京のオフィスビル群や、マンハッタンのウォールストリートのごとく高層ビルが集中しているわけではない。あくまでも広い青空、揺れる椰子の木のだだっ広いエリアに、社名を掲げたオフィスビルがポツポツと立っている、という印象である。 さて、2週間の旅を終え、わたしたちが西海岸にたどり着いたのは6月27日のことだ。 翌日28日にアパートメント探しを開始し、29日には住む部屋を確定。そのままレンタル家具店へ行き、ソファーセットやダイニングテーブル、ベッドに机、本棚など、必要最低限の家具を借りる手続きをした。30日には日用品を調達に、BED BATH AND BEYONDという全米にチェーンを持つ大型店でショッピング。 7月1日は夫が晴れて初出勤。とはいえ、翌日からは独立記念日の三連休。翌日2日に引っ越しをし、3日、4日で片づけを終え、5日からは「通常態勢」で、一日を始められるようになった。 来週にはワシントンDCから荷物が30箱ほど届くけれど、その片付けも1日、2日ですむはずで、もうすっかり、落ち着いた生活に入っている。 今回、何軒もの物件を巡って学んだのだが、この界隈のアパートメントビルディングは、どうも「オフィスビル」と「プール」に情熱を傾けているようだ。豪華な雰囲気を醸し出したオフィスビル、椰子の木揺れる美しきプールサイド……。 しかし、肝心のアパートメントそのものは、家賃が高い割に設備が整っていないところも少なくなかった。ランドリーが共同だったり(これはマンハッタンも同様)、窓辺にクモの巣が張っていたり(この近辺、昆虫類が豊かな感じ)、という物件もいくつか見られた。 ITバブルの頃には、そんなアパートメントでさえ、マンハッタン並、あるいはそれ以上の高い家賃だったようだが、ここ数年は少しずつ「落ち着きを取り戻している」ようではある。 古い物件の多くは、何かとマイナス面が目に付くことが多かったので、途中から「新しい物件だけ」に絞り込んだところ、かなり理想的な今のアパートメントを見つけることができた。 サニーヴェールのダウンタウンにあるこの3階建てアパートメント・コンプレックス。空室は2室しかなかったのだが、幸い南東向きの角部屋、3階の部屋が空いていた。わたしたちの望む2ベッドルーム、2バスルーム、風通しよく、日当たりもよく、周囲を街路樹に囲まれた眺めのいい部屋だ。 何よりもうれしいのは、天井がとても高いこと。たいへん開放感があり、気分がいい。キッチンも今までより広く、使い勝手がいい。まだ招く人もいないのに、パーティーでも開きたくなる雰囲気だ。 最初は「半年くらいだから、そこそこの場所でいいや」と思っていたけれど、いざ部屋探しを始めると「半年しか住まないのだから、妥協せずいいところに」という気持ちになり、結局、ここに住むことに決めた。 家から1ブロック先にマーフィー通りといわれる古くからのプロムナードがあり、レストランやショップが軒を連ねている。さらにその隣には、かなり規模の大きいショッピングセンターがある。ショッピングセンターといっても、全米各地で見られる近代的なモールではなく、築数十年といった風情の平屋の商店街で、いずれも「個人商店」ばかりだ。 マーフィー通りの方は、まだ「雰囲気のよい店」も散見されるが、商店街については、かなりあやしい。 ぎょっとするようなデザインの服を売る店があるかと思えば、キーボードやギターなどの楽器店あり、中国漢方・鍼灸店あり、"Fish"とあるから魚屋か? と思えば熱帯魚店あり、煙草にシガーの専門店あり、「男性ヘアカット7.99ドル」の看板を出すヘアサロンあり。 いずれも、果たして商売は成り立っているのだろうかと心配になるような店が主である。それでも、日本料理店もあるし、ネイルサロンもあるし、これから何かと、足を運ぶことになりそうだ。 さて、ランチタイムになると、マーフィー通りの舗道にはレストランやカフェのテラスが出て、木漏れ日の中、食事を楽しむ人たちで賑わう。メキシカン、イタリアン、中近東、チャイニーズ、タイなど、各国料理のレストランがあり、いずれも庶民的なムード。すでに何軒かの店で食事をしたが、リーズナブルでそれなりにおいしい。 ランチタイムが終わると、歩く人のない、静かな通りになるが、夜になるとクラブやバー、ダンスホール、ライブハウスなどがオープンし、違った表情を見せる。土曜の夜は、アイリッシュバーに立ち寄り、生演奏に合わせて踊ったりして、とても楽しかった。 毎週、土曜日の朝にファーマーズマーケットが開かれるのもまた、うれしい。マーフィー通りいっぱいに、農家の人たちが露店を出して、野菜やフルーツ、花、魚介類、パン、ケーキなどを販売するのだ。 土曜の昼、ランチを食べに出かけてマーケットに出くわしたわたしたちは、半ば興奮状態で露店を徘徊した。 「ネクタリンが安い!」「この白いバラがきれい!」「おいしそうなパンだ!」「このニンジンもオーガニックだってよ」「イチゴも買おう」「エクレア買いたいけど、どうする?」「サモサは買うよ!」「ジャガイモも」「チンゲンサイとチャイニーズブロッコリもある」「日本っぽいナスだ」「手作りポークソーセージ、味見した?」「このトマト、熟しておいしそう」「アプリコット、おいしかったよ」「やっぱりエクレアは来週にする」 すっかり両手は荷物でいっぱい、一度家に戻ってから、再びランチへと出かけた。こんなファーマーズマーケットが家のすぐ近くで毎週開かれるなんて、この上なくうれしい。 車で10分ほど走れば、DC時代からなじみのWHOLE FOODS MARKETもあるし、日本のスーパーマーケットNIJIYAもある。サンノゼに日本人町があるのだが、そこにある老舗豆腐店「サンノゼ豆腐」の豆腐も売っていた。冷や奴で食べたら、本当に、おいしかった。 昨日は昨日で、マーフィー通り一帯が「歩行者天国」となり、特設ステージでライブが行われていた。何でも夏の間は毎週水曜日、こうして野外コンサートが開かれ、それに伴いさまざまな露店も開かれるのだという。 各自持参の折り畳み椅子に座り、ビールを飲みつつ、軽食を食べつつ音楽を聴く人、踊る人、カフェテラスから眺める人……と、あたりはもう大変な賑わいで、「陽気な夏のカリフォルニア」そのものの情景だった。 マンハッタンともワシントンDCとも違う、昔ながらの素朴なカリフォルニアの日常。洗練されたお洒落な店やモールに行きたければ、車でサンノゼやサンフランシスコに足をのばせばいい。 わたしもA男も、この、少々野暮ったいがローカルな雰囲気が気に入った。家に帰れば、温水プールはあるし、まるで温泉みたいなほかほか湯気の上がるジャクジーはあるし、なんだかとても、いい感じである。 人々はフレンドリーで親切だし、店の人は愛想がいいし、東海岸に比べると「笑顔率」が格段に高いのも心が和む。半年と言わず、もうちょっと長居したい気さえしている。 (7/7/2005) Copyright: Miho Sakata Malhan |