ワシントンDCへ、桜を見に行く

muse new york Vol. 7 (Spring 2001) の特集記事から転載しています。

 

 

春、ポトマック河畔、タイダル・ベイスンの周囲には桜の花が咲き誇り、あたりは柔らかな薄桃色に包まれる。ワシントンDCのシンボルともいえるこの桜並木の由縁は、1912年に遡る。当時、東京市長を務めていた尾崎行雄が、日米友好の証として贈った3000本の苗木が、時を経てなお、毎年美しい花を咲かせているのだ。

1935年からは、「ナショナル・チェリーブロッサム・フェスティバル」が開催されるようになり、現在では、この時期35万人の観光客が、桜を一目見ようとワシントンDCを訪れる。2002年は3月23日から4月8日までフェスティバルが催され、連日さまざまなイベントが行われる。ニューヨークから飛行機でわずか約1時間、アムトラックで約3時間強のワシントンDC。お花見を兼ねて、首都観光に出かけてみてはどうだろう。

 

 


2002 NATIONAL CHERRY BLOSSAM FESTIVAL

2002年3月23日〜4月8日


 

1935年以来、毎年開かれている「ナショナル・チェリーブロッサム・フェスティバル」が今年も開催される。期間中は、パレードをメインに、連日さまざまなイベントやコンサート、スポーツ競技などが行われる。イベントのスケジュールなど詳細は下記へ問い合わせを。

Cherry Blossom 2002
(202) 547-1500
www.nationalcherryblossomfestival.org


 

 

 


●4月6日(土)パレード CHERRY BLOSSOM PARADE 9:30AM〜

ナショナル・チェリーブロッサム・フェステイバル最大のイベントであるパレード。これは、ワシントンDCで毎年開催されるパレードのなかでも最大規模のものだ。朝9時30分より、世界各国のコスチュームに身を包んだ参加者が、Constitution Ave.の7th St.から17th St.までを賑やかに練り歩く。グランドスタンドのチケットは$14。チケットがなくても、歩道から見学することができる。
(202) 547-1500

 

●4月6日(土)桜祭り 12th Street Sakura Matsuri 12:00-5:00PM

パレードが終わるころ、ジャパン・アメリカ・ソサエティが主催する「12ストリート桜祭り」が開催される。場所は12th St.のConstitution Ave.とPennsylvania Ave.の間。日本の文化を伝えるさまざまな催しが行われ、日本食の屋台なども出る。
(202) 833-2210


 

 

桜の花に寄せて、思うことなど

桜の花を思うにつけ、脳裏に浮かぶ文章があります。昔、大学受験のため、現代国語の参考書を開いていたときのことです。「論理的散文」の項にあった、大岡信氏の『言葉の力』という例文が目に留まりました。

大岡氏は、言葉の本質は、口先だけのもの、語彙だけのものではなく、それを発している人間全体の世界をいやおうなしに背負ってしまうところにある、と述べた上で、自然界にもそのような現象があると前置きし、このような話を述懐していました。

あるとき、大岡さんは、京都の嵯峨に住む染織家を訪ねます。そこで、えも言われぬほど美しいピンク色に染め上げられた着物を見せられます。その色を何から出したのかと尋ねると、染織家は「桜からです」と答えます。桜で染めたピンク色の糸で織り上げたのだと。当然、大岡さんは、桜の花びらを煮詰めて取り出した色だろうと解釈するのですが、実は違いました。

それは、桜のゴツゴツとした樹皮から取り出したのだというのです。しかも、その桜色は1年中取れるわけではなく、桜の花が咲く直前の皮を使ってこそ、その引き寄せられるような「桜色」が取り出せるといいます。

大岡さんは、染織家の言葉に、身体が揺らぐような不思議な感じに襲われます。年に一度、ほんの束の間、激しいほどに咲き誇る桜の花は、その木、全体で、春のピンクに色づいていたんだと言うことを知り、はっとしたのです。大岡さんは、この桜の話をたとえて、桜の花びら一枚一枚が、まさに言葉の一言一言であって、そのように言葉というものは考えられるべきではなかろうかと結んでいます。

私は、この文章を読み、言葉との関連づけについてはさておき、桜の樹皮の話が鮮明に心に残りました。それ以来、「桜」は、私にとって、少し特別な意味合いを持つ木となりました。

90年ほども前に、遙か遠い日本から届けられた桜の木々が、今年も花を咲かせます。発するメッセージも何もなく、ただそこに咲いているだけで、世界中の人々の心を引きつける自然の産物とは、なんとすばらしいものだろうかと思わずにはいられません。                   (坂田美穂 2001年春)


 

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