最新の片隅は下の方に

MARCH 7, 2005  こっそりと、春が来ていた

久しぶりに、カテドラルを散歩した。

地面にとても近い場所で、小さな小さな花たちが、

春風に揺れながら、歌うみたいに咲いていた。

手を差し伸べて、触りたくなる愛らしさ。

MARCH 8, 2005  インドなスナック

バンガロアの食料品店で買ってきていたインドのスナック。
どれも自己主張の強いスパイシーな味わい。
どれもそれぞれにおいしい。
ビールによく合う。
インド映画のDVDを見ながら味わう。

MARCH 9, 2005  チャート!

「ミホ〜! 新聞に、チャートのことが載ってるよ!!」
チャート??
ニューヨークタイムズの水曜日はDining Outのセクションがある。レストランやグルメ情報が載っている。そこに今日は、インドの国民的スナック「チャート」が紹介されていた。"Chaats are jumbles fo flavor and texture: sweet, sour, salty, spicy, crynchy, soft, nutty, fried and flaky, tidbits, doused with cool yogurt, fresh cilantro and tangy tamarind and sprinkled with chaat masala, a spice mixture that is itself wildly eventful." 読んでいるうちにも、あの複雑なおいしさが蘇ってくる。ニューデリーの
「スイーツ・コーナー」という軽食店で食べたパプリ・チャートのおいしかったこと。そんな本場のおいしいチャートが、マンハッタンでも味わえるようになったのだという、これは大きな記事だった。

 

MARCH 10, 2005  大切な時間

マンダリン・オリエンタルホテルのスパへ。この場所はもう、本当にお気に入り。
広々としたジャクージーで、ブクブクと水で身体をほぐし、
ナチュラルなアロマが漂うスチームサウナでリラックス。
心地よ〜いフェイシャルを受けた後、シャワーを浴びて、ラウンジでしばしうたた寝。
スパを出たあとは、ホテルのラウンジで原稿を読みながら、書き物をしながら……。
コーヒーよりもお茶を、と、今日は中国の緑茶、龍井茶(ロンジン・ティー)を。
香り豊かなお茶がおいしい。でもお茶の葉がみっちり、多すぎる! 
お湯を足して貰いながら、長いこと、そこで過ごす。

 

MARCH 11, 2005  春色きいろ、赤、みどり

無数のワインが並ぶ中で、その黄色は際だっていた。
「赤い自転車」という名のワイン。
バケットをくわえて走る犬の姿の愛らしいこと!
思わず手に取り、カートへ入れる。
さほど好きなブドウではないのだけれど、
ただもう、そのラベルの春らしさにひかれて、
買ってしまった。

さまざまなチューリップが、花屋の軒先を彩るころ。
オランダから来たチューリップを二束買った。
少しうつむいた感じのそれらを、
流れ落ちる花火のように活けていたつもりだったのに……。

翌朝目覚めたら、
みな姿勢良く、光に向かって、
背筋を伸ばしていた!!

 

MARCH 12, 2005  素材の旨味を噛みしめる。

今夜はまた、アウトドアな感じの夕食。主役はコーニッシュヘン。小振りの鶏肉で、脂が少なく身が締まっていて味わいがいい。たいてい二羽が1パックになって売っている。その気になれば一人一羽を食べられるくらいの大きさだけれど、その気にならずに二人でわける。まずはお気に入りのユーコンポテトとチキンを、オーブンに入れる。いずれも軽く塩胡椒して、軽くバターとオリーブオイルを表面に塗る。その間に、アスパラガスやレッドペッパーや、マッシュルームなど、冷蔵庫にある野菜をあれこれと取りだして、オーブンの中へ途中参加。野菜は軽くオリーブオイルを振りかけるだけ。このシンプルな料理に欠かせないのは、毎度おなじみガーリック。今日はやはり、オリーブオイルをかけてアルミホイルに包んだものを蒸し焼いた。これを潰して、野菜や鶏肉に付けながら食べるのがおいしい。ただ焼くだけの、とても簡単な料理だけれど、素材の力や旨味が発揮されるので、わたしたちはとても気に入っている。最初はナイフとフォークで切り分けていたのが、そのうち手づかみになって、もうワイングラスもベタベタで、でもそうやって食べるのがおいしい。

 

MARCH 13, 2005  春支度

夫の伯母が出張でインドから来ていた。彼女の姪夫婦と5人で、ショッピングモールのレストランでランチを食べた。そのまま帰るのもなんだからと、ウインドーショッピング。「ミホ、服を買ったら?」と夫。DCに移ってからというもの、本当に服を買わなくなったわたしを、彼は見かねている。お洒落に興味がないわけじゃないのだけれど。いくつもの服を抱えて試着室に入る。夫は店のソファーに座って、お茶をいただいている。着替えるたびに外へ出て、夫に見せ、客観的評価を仰ぐ。別のカップルもまた、同じようにしている。米国ではこうして、伴侶の試着に密着するのは普通のこと。伴侶どころか、他のお客までもが、「あなた、そのシャツは似合わない。さっきの赤い方がいいわよ」なんて意見を言う。更に今日は、「これを試してみなさいよ」なんて言いながら、数枚のブラウスを、わたしのために選んでくれるお客もいた。そのフレンドリーさ、というか馴れ馴れしさはニューヨーカー的。"Sex and the City"の登場人物みたいに。夫もソファーから立ち上がり、「このスカート、かわいいから着て!」と差し出す。うわっ。ピンク色のGirlyなデザイン。ひとりで来たならば、決して選ばないようなスカートだけど、彼の好みを尊重して買うことにした。この際、似合う似合わないはさておき。思いがけず、いくつもの服を買って、春の準備は万端。

 

MARCH 14, 2005  春の野原のような、海の幸と野菜たっぷりの白いシチュー

急にシチューのようなものが食べたくなった。北風小僧にささやかれたわけじゃないのだけれど、ハウスシチューのような。あいにく、ハウスシチューは家にないので、自分でホワイトソースを作ることにした。まずはフライパンで野菜を炒める。今日はニンニク、タマネギ、ニンジン、ズッキーニ、ジャガイモ、それにマッシュルーム。そこにサーモンや、冷凍のエビ、ホタテ貝柱を加えて軽く火を通し、ひたひたの「チキンスープ」で煮込む。ホールフーズに売っているオーガニックのスープストックは、こういうときにも便利。具を煮込んでいる間に、小鍋で小麦粉とバター、ほぼ同量を焦がさないように混ぜる。全体になじんだら、牛乳を注ぎ滑らかになるまで混ぜる。牛乳とチキンスープは同じくらいの量。野菜などに火が通ったら、ホワイトソースを流し込み、全体になじませて、塩、胡椒で味をととのえ、できあがり。初めて作ってみたけれど、やさしくて素朴な味で、とてもおいしかった。味の決め手はスープストックとほんのりバターかな。生クリームを入れなくて十分こくのある味わいになった。お試しあれ。

 

MARCH 15, 2005  願い

この地に暮らして3年余り。
そして迎える4度目の春。

何度となく、訪れたカテドラル。
何度となく、手を重ねた祭壇。
叶えられた祈りもあり、叶えられなかった祈りもあり。

過ぎた日々を顧みれば、
叶わなかったことであれ、受け容れられる。

わたしにも、あなたにも、必要なのは多分、
それぞれが願い、それぞれが祈ることのできる、
時間と、空間と、心を、いつも、持ち合わせていること。

24時間のうちの、たとえ1分でも。30秒でも。

ふらふらと動き回る、だから自分の軸は自分の中にある。
願いはいつも、両の掌に、温かく、封じ込められている。

 

MARCH 16, 2005  ワイルドの極み料理。


肉の塊を塩でカバーする。


なんだこれは!?な焼き上がり。


蓋をあけると湯気と共にいい香りが! 余分な脂身は切り落として盛り付けます。

今日、スーパーマーケットに出かけた折、精肉コーナーで豚肩の大きな塊肉を発見しました。急に、「豚の角煮」とか、「チャーシュー」といったものが食べたくなりました。その時、ふと、思い出したのです。以前、友人が「たっぷりの塩と卵白を混ぜたもので豚の塊肉を包み込んで、オーブンで焼くとおいしいよ」と言っていたことを。それを作ってみたくなりました。

いつだったか、「料理の鉄人」で誰かがそれらしい料理を作っているところを見たことがありますが、正しい作り方がわかりませんので、帰宅してインターネットで調べようと思いました。どんな言葉で検索すればいいのか……と考えていた矢先、「しおがま」という言葉が記憶の底から沸き上がってきました。さっそく「塩がま焼き」で検索したところ「塩釜」と「塩竃」が出てきました。辞書で調べたところ、「塩竃」の方が正しいようです。さて、塩竃料理ですが、各サイトで紹介されているのは、主には牛タンや鯛などを用いた料理で、豚肉の塩竃焼きというのは、あまり見あたりません。いくつかのサイトを参考にさせていただきながら、今回、作ってみました。

買ってきていた豚肉は1キロほど。半分だけを調理しようかと思いましたが、面倒なので一気に調理することにしました。とてもダイエット中の人間が作る料理とは思えません。話がそれますが、わたしは渡米以来増え続けた体重(計7、8キロ)を、今年こそもとに戻す構えで、1月末より減量を心がけているのです。実際、3キロほどは痩せました。一気に痩せるのはよくないので、1カ月1キロという根気のいる作戦をとっています。具体的なダイエット法はありませんが、ただ、全体に食事の量を減らしているのです。ですから、たっぷり作っても、少しずつ食べています。一度に2人で1キロを食べたりはしません。弁解することもないのですが。

さて今回、肉1キロに対し、塩1.5キロほど、それに卵白を4個分、用いました。まず、塩に卵白を加えて手で捏ねながらなじませます。粘土状になったそれを、オーブンシートに適量敷き、その上に肉塊を載せます。そうしてペタペタと、肉の表面に塩をくっつけるようにして包みます。この作業はとても楽しいです。ただ手に切り傷などがあるとしみますので要注意。卵白を多く使うので、お菓子作りなどで卵黄を使ったときに、この料理を作るといいかもしれません。

華氏350度に熱していたオーブンに入れて約1時間ほど焼きます。肉の量が少なければ、もう少し短時間でもいいでしょう。焼き上がったらオーブンから出し、しばらく冷まします。そうしてついにはトンカチでコンコンと表面を割って……。のつもりでしたが、ちょうどいい具合にヒビが入っており、カパッと蓋があきましたので、トンカチ不要でした。コンコンとやってみたかったのですけれどね。空けた途端、いい香りが立ちこめました! 

焼き上がった豚肉は、薄くスライスして食べやすい大きさに切り、今日はたっぷりのキャベツ炒めとトマトのサラダと共にテーブルに供しました。生姜醤油を付けながら(でも、豚肉そのものにほどよく塩が利いているので、醤油は不要かもしれません)食べたところ、そりゃあもう、想像以上においしいものでした。ご飯が進んで困りました。夫も「サシミ・スタイル!」と言いながら、この上なく喜んで食べておりました。

この簡単でおいしい塩竃料理をお試しください。わたしも牛肉や鶏肉など、異なる素材で挑戦してみようと思います。

 

MARCH 17, 2005  日本のリンゴ/ 春の夕暮れ

りんご。毎日食べる果物。日本のそれに比べると、不格好で、色つやが悪く、けれどお気に入りは「FUJI」。ワシントン州で作られている、日本の味。ほどよい甘みと酸味。サクッとした歯ごたえがいい。

いつものスーパーマーケットで、オーガニックのFUJIを買う。今日は安売りをしていた。いくつもをビニール袋に入れるわたしの傍らで、やはり同じようにたっぷり買っている人が。
「わたし、このリンゴ好きなのよ。今日はずいぶん安いわね」
「ほんとに。わたしもこれが好きでいつも買ってるの。ところでFUJIは日本のリンゴだって、ご存じ?」
「あら、知らなかったわ。そうだったの」
こんなときはいつも、ついつい「お国自慢」をしてしまう。

黙々と、原稿を追っていた目を、ふと上げると、窓の外の、向こうの街が、薄い薄い赤紫に、染まっていた。

 

MARCH 18, 2005  春ランチ

友人と、ランチの約束をしていたので、サットンプレイスまで歩く。
カテドラル・アベニュー沿いの家々の、庭先を眺めながら。
今はどの庭もクロッカスが盛りで、暖かな日差しに照らされて、花弁を広げている。

どこからか、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
老紳士が、高い高い木を、見上げている。
わたしも足を止めて、高い高い木を見上げる。そのてっぺんに目を走らせる。
梢の先で、鮮やかな紅色の小鳥が、ピュルピュルと歌っている。
青空を背景に、光が弾けている。

Chef Geoff、というビストロにて。
ウエイターのおすすめに従って、アスパラガスのサラダを注文した。アントレ(主菜)だというのに、それはアメリカらしからぬ、余りに上品なボリュームで、物足りなかった。食後、デザートを食べることにした。

人気があるというそのデザート。チョコレートのスポンジの間に、ピーナッツバター風味のクリームが挟まれている。これはいかにもアメリカン。小さなカップにミルクが添えられていて、まるでお子さま向け。

ロンパールームを思い出した。テレビの中の、あの子たちが飲んでいた牛乳は、どうしてあんなにおいしそうに見えたんだろう。

 

MARCH 19, 2005  春のブランチ。

土曜日のブランチ。今日はバターミルク・パンケーキ。いつかも書いたけれど、バターミルクはバターを作ったあとに残る脱脂乳を加工した、酸味のある軽いミルク。この酸味が、生地をふんわりしっとりさせてくれる。

ほんのりバターで薄く焼き上げたパンケーキを、できるだけヘルシーに味わいたいので、トッピングをひと工夫。バナナのスライス、冷凍ストロベリーを解凍してつぶしたもの、それにウォルナッツを砕いたものをボールに入れ、ハチミツを軽くかけて混ぜ合わせる。こうすると、とてもリッチな味わいだけれど、カロリー控えめ、ヘルシーなブランチになる。クレープみたいに具を包んで、手で食べるとひときわおいしい。そろそろベリー類のシーズンがやってくる。ブランチの食卓が、カラフルになる。

 

MARCH 20, 2005  アーティチョーク

スーパーマーケットが春めいてきてうれしい。いよいよ、ストロベリーやブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーが安くなってきた。皮付きのトウモロコシも少しずつお目見え。そろそろネクタリンやピーチも店頭に並ぶ頃だろう。そんな春めいた生鮮品売場で、ひときわ目を引いたのはアーティチョーク。ごろごろと、トマトやレモンの領域にまで溢れ出すほどたっぷりと。わたしはハート(芯)の部分の缶詰を買って調理したことしかなく、あまりなじみのない素材。イタリアンレストランで、食べたことはあるけれど……。茹でたり蒸したりしたものを、オリーブオイル、もしくはマヨネーズ、あるいはバターソースなどを付けて食べる。中身は丸ごと食べられるけれど、「がく」の部分は筋があるので、歯でしごくようにして食べる。がくの部分だけに小麦粉をまぶし、唐揚げにしたものもおいしかった。今度、料理してみようかな。

 

MARCH 21, 2005  アメリカでのパン。アメリカでの魚。

米国で、シンプルなおいしいパンを作るベーカリーを見つけるのは、本当に難しい。欧州の、どの街角にもあるような、昔ながらの素朴なパン屋さんが、どうしてないのだろうといつも思う。スーパーマーケットに並ぶ、大量生産の味気ない食パン、ハンバーガー・バンズやホットドッグ・ロールに比べれば、ホールフーズ・マーケットのベーカリーのパンは、遥かにおいしい。でも、ベーカリーの職人が「プロばかり」とは限らないようで、買うたびに、焼き上がりの様子が違う。たとえば、正方形であるべきパンが、あるときは台形だったり、あるときは、不等辺だったり。あるものは、ふくらみすぎていたり、つぶれていたり。それでも味はなんとか一定なので、そのつど、その日一番見栄えのいいものを、買う。今日は、見慣れないパンがあった。「ポルトガル・ブレッド」とある。コッペパンのような、懐かしい形をしている。きめが細かく、ふわりと焼き上がっていて、食べやすいおいしいパンだった。次に行ったときも、こんな形で売っているだろうか。

米国で手に入る、最も新鮮でおいしい魚といえば、サーモンだと思う。タラやヒラメ、カレイなどの白身魚もあるけれど、味わいが淡泊ゆえに、それらは揚げ物やムニエル風など、むしろ高カロリーな調理法になってしまうし、しょっちゅう食べたい魚とはいえない。ちょっとこってりしたチリアン・シーバスなどは、捕獲制限付きの高級魚であり、しばしば食卓に、という魚でもない。あとはエビやムール貝、ホタテ貝柱、などを合いの手に、主流はサーモン、なのである。たまにコリアン系のスーパーマーケットで、サバなどを買いだめてくる以外には。であるから、サーモンは、調理法をあれこれ変えないと、飽きてしまうのである。今日は珍しく、ホイル焼き、というのをやってみた。ローズマリーが残っていたので。オリーブオイルと塩胡椒、そしてローズマリーを添えたサーモンをホイルで包み、オーブントースターで焼くだけ。かなり簡単に、ほっこりとヘルシーな味わいの一品となった。それにしても、恋しきは、日本の魚売場。

 

MARCH 22, 2005  すばらしい天気

雲一つない、澄み渡る、見事な青空。

今日は、バスを使わずに、ずいぶんと長い道のりを歩いた。

歩きやすい靴をはいて。

街の至るところで、いよいよ春が、芽吹いて、芽吹いて、

どこまでも歩いていけそうなひと日。

 

MARCH 23, 2005  ものものしいマスク

日本のスギ花粉ほどではないけれど、緑の豊かなこの街では、飛来する花粉も少なくないと聞く。最近、くしゃみや咳が出るので、ひょっとしてアレルギーかも、と思い、マスクを買おうとドラッグストアへ行ったのだけれど、こんなマスクがひっそりと、片隅に数箱、置いてあるだけ。花粉の時期を除いたとしても、そもそも、日本のようにマスクを多用する国はほかにないと思う。自分の身を守るため、だけならともかく、「他の人にうつさないように」という配慮からくるマスク着用は、日本人くらいのものじゃなかろうか。そんなわけで、日本で見るような「高性能なマスク」はもちろん、この国にはなくて、選択肢なく、買ってはみたけれど、付け心地ごわごわだし、ものものしいし、携帯もしづらいし、どうしたものだ、と持て余してしまう、そんなマスク。

 

MARCH 24, 2005  開花

3月も終わろうとしているのに、昨日も今日も曇天で、でも、遅くても確実に、花は開いてゆく。

 

MARCH 25, 2005  藍色印度

ダウンタウンにヌーベル・インディアンなレストランがオープンしたと聞いていた。ようやく昨日、予約が取れたので出かけた。IndeBleu。チャイナタウンのそばにあるだけあり、「藍色印度」と中国語の看板もある。最近、この界隈は再開発が進んでいて、新しいレストランが軒並みオープンしているのだ。

フランス料理とインド料理を融合させた、というメニューを目で追いながら、まずはスパークリングワインで乾杯。前菜を3品、主菜を1品、注文することにした。

前菜は、カレー風味のオイルとマンゴーの甘みが効いた、ロブスターとカニ肉のサラダ、ほのかなスパイスが食指を動かすフォアグラのサンドイッチ、それにパパルというスナックが添えられたマスタード風味のツナのタルタル。いずれも上品なポーションで、パンのように小皿に供される焼き立ての小さなナンとともに味わう。ツナのタルタルは味付けが今ひとつ口に合わなかったけれど、それ以外はいずれも美味だった。

それからメインにタンドーリ風味の骨付きラム肉を注文。ほのかなスパイスの風味とラム肉特有の香りがいい塩梅で溶け合って、焼き加減も柔らかくジューシーで、とてもおいしい料理だった。

店はお洒落に着飾った人が多く、華やいだ雰囲気。グラス片手に、自ずと背筋が伸びてくる感じだ。そうしたら、ウエイターの一人が、「あなたは姿勢がいいですね〜! ミュージシャンですか?」と声をかけてきた。思わず歌い出そうかと思った。背筋が伸びすぎていたようだ。

さて、デザートは、遊び心の効いた一品を。「スパゲッティとミートボール」。インドの甘いお菓子グラブ・ジャムンを「ミートボール」、サフランとカルダモン風味のアイスクリーム、クルフィを「スパゲティ」に見立てたもの。無論、インドのクルフィは固形状で、春雨のようなヌードルを添えて食べることもあるのだが、この店はクルフィそのものをヌードル化していた。

しかもまるで「ところてん」を押し出すみたいに、テーブルの上でクルフィを「押し出して」くれるのが楽しい。雰囲気のいいレストランでカメラを取り出すのはみっともないから、できるだけ避けようと思ってはいるのだが、これはもう衝動的に、バッグからカメラを取りだしてシャッターを切った。

グラブ・ジャムンは堅すぎておいしくなかったけれど、クルフィは喉ごしが心地よくおいしかった。いい夜だった。

 

MARCH 26, 2005  らくだの涙


映画の一こま。らくだの母子


90年のゴビ砂漠。遊牧民の母子

モンゴルの、ゴビ砂漠を舞台にした映画をケーブルテレビでやっていたので、観た。"The Story of the Weeping Camel"。四世代が共に暮らす遊牧民家族の、ラクダやヒツジたちとの日々。

何の作為もなく、ただ、日々を生きる姿の力強さ。潔さ。たくましさ。小さな子どもが大きなラクダを乗りこなす、その愛らしい勇敢さ。映画では、遊牧の「過酷さ」があまり描かれていなかったけれど、押しつけがましさのない、ありのままが本当に、よかった。

一人の人間ができることは限られているのに、たくさんの「物」と「情報」の渦の中で、たくさんを抱え込んで、色々な役割を、敢えて負おうとしている人の多い社会が、先進の社会。何をするにも言い訳がいるような、そんな気配が散らばっている社会のなかで、「感動」とか「感謝」とか「感激」とか「癒し」とか、悉く口にして、そうでもしなければ、均衡がとれないと言うみたいな、せっぱ詰まった世界の中で、いっそ無口になりたくなるときがある。そうして身軽でいたいと思う。でもそこには矛盾が満ち満ちている。そう在ることが、容易ではないから、だから憧れるみたいにそう思うのだ。

13年前に立ったゴビ砂漠のことを、折に触れて思い出すのは、あの無辺の大地に立ったときの、まっさらな気持ちが大切だからだ。ゴビ砂漠を北へ突き抜ける列車から眺めた、西へ沈み行く橙色の太陽と、東から昇り来るミルク色の月。砂の匂いがする乾いた風。天蓋から仰ぎ見る青い星空。草もない荒野を飛ぶバッタ。それに等しい自分。馬乳酒の酸っぱい匂い。かたいビスケットの歯ごたえ。朗々と響き渡る村長の歌声。歌声。大地に響き渡る歌声。屠殺したばかりの羊肉の味わい。大地で用を足したときの、お尻がスースーとする感触。座ったラクダの背にのって、ラクダが立ち上がったときの、その予想以上の高さに驚く瞬間。その高みから眺め見るゴビ砂漠。ラクダの背中で感じる風の、笑い出したくなるくらいの気持ちよさ!

てのひらの温もりや、心からあふれてくる歌声を、これからももっと大切にしようと、見終わって、思った。

 

MARCH 27, 2005  ふわふわのオムレツ

「今日のブランチはなに?」「う〜ん。考えてない」「じゃあ、僕がオムレツを作るよ。ミホはトッピングの材料を切って」

滅多に、というか全くキッチンに立つことのない夫が、実に7年ぶり、出会って以来2度目のオムレツを作ってくれるという。7年前と同じく、卵黄と卵白をわけて、卵白を泡立て始めた。メレンゲに卵黄と、マッシュルームやタマネギ、トマトののみじん切りを加えて焼く。「その作り方、どこで習ったの?」「ん? 僕の発明」「嘘ばっかり。誰に教わったの?」「さあね〜」……ちなみにこの「スフレオムレツ」は、フランスのノルマンディー地方、モンサンミッシェルの伝統的なオムレツだ。

ぎこちない手つきでフライパンに流し込み、フライ返しで形が崩れ、けれどいい香りを漂わせながら、オムレツは焼き上がった。「どう? おいしいでしょ!」「うん。おいしい。おいしいよ」……ふわふわと言えばふわふわだが、すかすかといえばすかすかな、何とも微妙な味わいのオムレツ。この次に食べるのは、いったい何年後だろうか。

 

 

MARCH 28, 2005  2005年3月28日午後6時半前後のワシントンDC上空が劇場

  

MARCH 29, 2005  日差しと青空

1週間ぶりの青空に、目がくらむ。

路傍の花金鳳花(ラナンキュラス)が、

さもうれしそうに、咲いている。

 

MARCH 30, 2005  しっかりと。

気持ちが定まらない朝には、ミルク粥がよく似合う。
小さな器に、レーズンと、砂糖を入れて、
そのかわいらしさに、少し和んで、
それらを、ぱらぱら、と、ふりかけて、
窓の向こうの、萌え始めた木枝を眺めながら、
今日もいい天気だ。よき一日を。
オーツ麦の香ばしさを噛みしめながら、
食べる。

 

MARCH 31, 2005  バックアップ

ふと気付くと、たいてい1年くらいたっている。
そろそろまとめて、バックアップを取っておかなければ。
外付けのハードディスクに保存する。CDにも保存する。
大量に蓄積されたデータの、いったい何をいつどこで使うのかも知れず。
何もかも、取っておかなきゃ、という気もするし、
どれもこれも、どうでもいいや、という気もする。

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