JANUARY 1, 2005 HAPPY NEW YEAR! |
もう何度見たか知れないビデオを、夫がまた借りてきた。BLACK CAT WHITE CAT(黒猫白猫)。セルビア(旧ユーゴスラビア)を舞台に繰り広げられる、ジプシーたちの物語。初めて見たときは、なんて騒がしいドタバタ喜劇だろうかと思ったけれど、二度目、三度目と観るうちに、どんどん引き込まれていった。心を揺さぶる音楽、人々の表情、言葉が、あちこちに散りばめられている。おかしくて、かわいくて、泣けてきて、ほのぼのとする、そんなジプシーたちのようす。心に残る映画はたくさんある。たくさんあるけれど、わたしにとって、この映画は最も愛すべき映画だと、最後のシーンを何度も繰り返し観ながら、今日もまた、思った。 暮れなずむ川の、舟の上。バンドの音楽の渦、酒瓶を片手におじいさんが叫ぶ。 |
JANUARY 2, 2005 一皿で、三度おいしい |
映画を観たり、本を読んだり、お酒を飲んだり、昨日はそんな一日で、だから夕餉は簡単に。冷凍室から鶏の骨付きもも肉。冷蔵庫から、鶏のレバー。残っていたセロリ数本。野菜籠からタマネギ、そしてニンニク。何品かを作るのが面倒だから、全部まとめて一品を作ることにした。塩こしょうした鶏肉を、発酵バターとオリーブオイルを落としたフライパンで、さっと焦げ目が付くように焼く。たっぷりの肉汁はそのままに鶏肉だけ引きあげて、レバーも焼く。ニンニクは切らずに房ごと、タマネギもセロリも軽く焼く。そうして、具のすべてをひとまとめにしてオーブンにいれ、火が通るまで焼く。焼いている間も、映画を観ている。ワインを飲んでいる。温かないい香りが漂ってきたころ、パンを焼き、コーンスープを温める。焼き上がった料理は器ごとテーブルに。各自のお皿の上で、チキン、野菜、レバーと分けて盛り付けると、いかにも3品ある感じ。チキンはジューシーで、野菜も味が染み込んで、おいしい。さらにはレバーとニンニクをフォークの背で潰して肉汁をかけ、パンに付けて食べると抜群においしい「パテ」になった。 |
JANUARY 3, 2005 今夜もまた、ワイルドなキッチン |
夕べは友人宅に招かれたので出かけたけれど、それ以外はずっと家で過ごしていたこの3日間。米国の新年は、日本のお正月のような晴れがましさはなくて、大晦日が冬のホリデーシーズンのクライマックス。すでに世間は今日から仕事始めなのだけれど、我が家は独自にお正月気分。無論、夫は明日からの出張に備え、資料を作ったりしているけれど、わたしはひたすらのんびりしている。買い物に行く気分でもなく、冷凍室を見つめる。サーモンと、ソーセージ、それから枝豆(豆だけの冷凍が売っている)を取り出す。そして最近我が家でブームのスペイン的パエリア、或いはインド的ビリヤニ、もしくは日本的炊き込みご飯を作る。簡単で、それなりにおいしくできる。 1.
フライパンを熱し、油をのせる(オリーブオイル、バターなど好みの油脂類を) |
JANUARY 4, 2005 Tsunami |
今日のニューヨークタイムズに載っていた。地震・津波被災国への、支援金を示す棒グラフ。 圧倒的に長い、JAPANの横に伸びる黒い帯。 とても誇らしい気持ちになって、「ほら!」と、夫に指し示す。
(翌日、ドイツが支援金約7億ドルの提供を表明し、日本の約5億ドルを抜いたけれど) |
JANUARY 5, 2005 今年のわたしは |
今日の午後は、マンダリン・オリエンタル・ホテルで。 今年のわたしは、なにをしたいのか、なにをすべきなのか。 |
JANUARY 6, 2005 美味点心! |
久々に友人と、久々にDim Sum(点心)を食べに行った。我が家から車で約20分。メリーランド州シルバースプリングにあるOriental Eastという店。ニューヨークにいたころは、よくチャイナタウンや、近所のShun Lee Cafeで飲茶を楽しんでいたけれど、DCではチャイナタウンで、一度食べたきりだった。二人で出かけても、点心は色々な種類の料理が楽しめるのが本当にいい。甘辛チャーシューの肉まんに、歯ごたえふんわり大根餅、さくさくコロッケ風タロ芋フライ、ぷりぷりエビ蒸餃子にポーク焼売、あっさりしゃきしゃきチャイニーズブロッコリ、具だくさんちまきは滋味たっぷり……。どれも極めておいしくて、こんなことならもっと前から来るんだったとちょっと後悔。デザートの胡麻団子もあったかフワフワで、杏仁豆腐も柔らか滑らかで、たらふく食したランチだった。しかも、とってもリーズナブル!! 近い週末、夫と一緒にまた来よう。 |
JANUARY 7, 2005 夫が戻る夜 |
物事を、さっさと決めていくタイプだと、自分では思っているのだが、ときどき、些細なことに、とても迷う。今日はスーパーマーケットの花のコーナーで。今年初めての花を買う。大振りのバラ12本と、小振りのバラ3束が、同じ値段だった。大振りにも、小振りにも、色々な色があり、組み合わせがあり、どちらもそれぞれの美しさ。手にとって、花を見つめ、部屋に飾られたさまを想像し、これにしよう、いややっぱり、あれにしよう、悩んでいるうちにも、即決型のアメリカ人客は、花を状態を吟味することもなく、バサッと抜き取り籠にいれて行く。そう。彼らの多くは、リンゴを選ぶときも、ジャガイモを選ぶときも、わたし(たち)のように、傷みの有無や鮮度を確認したりせず、さっさと潔く、買い物をする。さて結局は、元気のよさそうな、小振りのバラを3束買った。甘く柔らかな、かわいらしい香りがする。 |
会社の慰安旅行で、ユタ州のスキーリゾートに出かけていた夫が帰ってきた。わたしはキッチンで、切り終えたバラの花を片付けていた。夫は「ただいま」を言うなり、3泊4日の報告を、とめどなく語り出す。わたしは片付けものをしながら、相づちを打つ。 ゴミに紛れていた短いつぼみを拾い上げ、夫に、短いバラだけを差したコップを指差し、「そこに一緒に入れて」と手渡した。 しばらくして、キッチンを離れ、ふと、鉢植えをのぞいたら、こんなところにバラのつぼみが! |
食後、久しぶりにエクレアを焼くことにした。小さめのシュー皮をいくつか焼いている間に、カスタードクリームを作る。甘みを抑えるかわりに、ヴァニラとラムの風味を少し強くして。それから生クリームを泡立てる。板チョコにも生クリームを少し入れ、電子レンジでちょっと溶かしてソースにする。 できあがったら今日は楽しく「手巻き寿司」ならぬ「手載せシュー」。インドのおいしいダージリンをいれて、テーブルにシュー皮と、生クリーム、カスタード、チョコレートソースを並べる。 本当は、シュー皮に具を詰めて出すのがちょっと面倒だったから、なのだけれど、こうして思い思いに具を載せて食べるのは、意外にもとても楽しくて、おいしく感じた。 ストロベリーやバナナなどのフルーツや、アイスクリームを用意して、もっと賑やかにシューパーティーをするのも、楽しいかもしれない。 |
JANUARY 9, 2005 うわ |
共和党支持者の夫を持つ友人と話していた。 何と言おうか……。たまらない。 |
JANUARY 10, 2005 時間 |
込み合っているインド大使館査証課。1時間半待って、ようやくわたしの番になった。「あなたのケースはここでは受け付けられませんから、あの部屋にいるオフィサーに会ってください。」受付の言葉に従い、個室のドアを叩くが返事はない。「誰もいませんけど」「そのうち戻りますから待ってください。」10分、20分、30分……。どれほど待てばいいのかと、受付に苦情を言えど、「待つしかない」との一点張り。1時間近く待ってようやく、にこやかにオフィサー登場。「あなたはMIHO SAKATAさんですね」「そうです」「僕の発音は正しい?」「ええ」。彼は資料を見るでもなく、質問を続ける。「あなたの仕事は?」「どんなことを書いているの?」「ご主人の仕事は?」「どこで結婚したの?」「いつ?」「なんでまたそんな暑い季節に?」「インド料理は何が好き?」「サリーは着られる?」「日本食でヴェジタリアンにお勧めの料理はなに?」……申請にはまったく関係のない雑談が交わされる。フレンドリーといえばフレンドリーだが、わたしの後にも待たされている人が続いている。早くすませなくていいのか。ようやく資料に目を通し始めた。そこで電話が入り5分待ち。さらに「ちょっと待ってて」と部屋を出たきり、更に30分待ち。そして戻ってきたら、もう資料に目を通すでもなく、「じゃあ、受付でお金を払って、受領できる日を確認してください。」10時半に入館し、出るころには2時を過ぎていた。どの国も、大使館の対応はおしなべてよくない。父の死に伴い、夫が日本に来るときの、日本大使館の許し難き対応に比べたら、今日なんて平和なものだ。と自分に言い聞かせながら、ランチタイムが終わっても、まだ空いているレストランを探しながら、歩く。 シーフードの店で、シーザーサラダとクラブケーキを食べた。白ワインも飲んだ。ランチのお酒は酔いやすい。推敲しようと持ってきていた原稿にも目を通さないまま。無為に平和に過ぎた一日。 |
JANUARY 12, 2005 デパートメントストアの蝶 |
午後。無性に息苦しくなってきた。 |
JANUARY 13, 2005 無口な午後 |
空を映す鈍色(にびいろ)の窓。 |
まるで追悼するかのように、画廊の海辺。 |
三日月を見上げて、屋根屋根のかわいらしさに気付く。 |
JANUARY 14, 2005 デジタルカメラとインターネット。 |
古いポジティブフィルムを、ダイニングテーブルいっぱいに広げ、整理をしていた。 あたりが暖かな色に包まれているのに気付いて、ハッと顔を上げたら、 |
JANUARY 16, 2005 手ぶくろ |
久しぶりに歩いて出かけようか、といいながら外に出て、その風の冷たさにたじろぐ。 春恋しく、冬は長く。手ぶくろ越しに手をつなぎ、肩を竦めて歩く運河沿いの小径。 |
JANUARY 17, 2005 寒い日には |
このところの冷え込みは格別だ。 |
何かとデリケートな日本の食卓には似合わないけれど、欧米ではチキンの丸焼きは一般的な料理のひとつ。スーパーマーケットのお総菜コーナーで、こんがり焼きたてのチキンを買うこともできる。夏は暑いから敬遠しているけれど、冬になると積極的にオーブンで調理する。というわけで今夜はチキンの丸焼き。ターキーに比べると、ぐっと小振りだから扱いやすいし、調理時間も短くてすむ。洗って拭いて塩胡椒して、表面にバターをベタベタ塗りつけて、オーブンに入れて焼くだけ。途中で好きな野菜を入れる。ガーリックを忘れずに。あとはスープを温めて、パンを焼いて、チキンは鉄板のままテーブルにドンと出す。ダイナミックでワイルドな食卓。パリッとした皮にナイフを入れる。立ち上る湯気。たっぷりしたたる肉汁。「オイシソウ!」の合いの手が入る。もちろん一度では食べきれないので、残りは身をほぐして、明日のお弁当、明日の夕食に、活用される。 |
JANUARY 18, 2005 チャパティ |
今夜は久しぶりにインド料理。部屋中にスパイスの香りをまき散らしながら、ダル(豆のカレー)をじっくり煮込む。それから今日は、チャパティ(ロティとも呼ばれる)を焼いた。ナンのように発酵させなくていいから、より手軽にできる、これは北インドの家庭の味。小麦粉(All purpose)と全粒小麦を合わせて塩を少々、水を加えてしっかり捏ねた後、冷蔵庫で30分ほど寝かせる。あとは直径15センチくらいに丸く薄く伸ばす。キッチンにもわたしにも、すっかり小麦粉がまぶされる。伸ばした生地は、フライパンで軽く焼くだけ。次々に焼いて優しく布でくるんでおけば、食事が終わるころまで、ほかほか温かく、やわらかい。ダルにはヨーグルトを添えて、チャパティで包むようにして食べる。昨日の残りのチキンは野菜と一緒に炒めて傍らに。 明日は雪になるそうだ。冬はまだまだ、長いなあ。 |
JANUARY 19, 2005 雪の日、花火。 |
ついには雪が降り出した。 「雪、降り出したよ!」 窓辺に立てば、氷のように凍て付く窓ガラス。 |
ジムで同じ場所を延々と歩きながら、ニュースを見ていた。 |
寒い毎日。風邪ひきの夫。今夜はホットチョコレート。すでに砂糖とミルクが入った、お湯やミルクで溶くだけのホットチョコレートも売っているけれど、アメリカのそれは強烈に甘いので、自分で加減ができる無糖のココアパウダーを使う。日本では、ホットチョコレート(ココア)といえばオランダのヴァンホーテン。アメリカでは、フィラデルフィア生まれのハーシーズか、カリフォルニア生まれのギラデリ。ギラデリは、ヴァンホーテンに比べると、風味が少々鋭いけれど、独特の味わいがある。ココアパウダーをお湯で練って、ミルクと砂糖、それから今日はシナモンスティックも入れて一緒に温める。マシュマロを浮かべると、フワフワ甘い泡みたいで、するっと飲み込む瞬間が楽しい。 ※写真は製菓用のパウダー。ホットチョコレート用も売っているけれど、砂糖入りなので。 |
JANUARY 20, 2005 自由の叩き売り |
晴れなくてもいいのに。 "Freedom" "Liberty" 連呼して、 |
JANUARY 21, 2005 オリーブオイルの食卓 |
オリーブオイルをよく使う。加熱する調理用には、大瓶のリーズナブルなものを。アペタイザーなど、オイルの味がより生きるもの、たとえばサラダやモッツァレラチーズにかけたり、パンに付けて食べたりするのは、ちょっと上質のものを。この国では欧州のオリーブオイルが種類も豊富に揃っているのがうれしい。先日、新しい味を試そうと、スペイン産のオリーブオイルを買った。緑がかった黄金色のオイルと、赤い封印のコントラストがとてもきれいだったので、それを選んだ。ボトルの美しさと味わいに関係はないかもしれないけれど、毎日手に取るものは、気に入った容器に入っている方がいい。と、翌日、出張から帰ってきた夫が、西海岸オフィスのボスからもらったと、カリフォルニアはナパ産のオリーブオイルを差し出した。まるでハーフボトルのワインのよう。こちらから、先に試してみることにした。力強く、こくのある、しっかりとした味わいで、新鮮な野菜にもよく合い、噛みごたえのあるトスカン・ブレッドにもよく合う。手をかけなくて、おいしい食卓が調うことのうれしさ。 |
見た目はちっともよくないけれど、かなり美味なるサラダを創作した。 |
JANUARY 22, 2005 タイヤのチェーン |
雪が降り出してきた。路面が雪に覆われてしまう前に、買い物に出かけなければ。スーパーマーケットはいつになく、込み合っていた。みな、雪が積もる前に買い物をすませようと思っているのだろう。いつもより、男性の姿が多い。メモを片手に買い物をする彼ら。風邪をひいている夫のために、ビタミンCを多く含む野菜や果物を籠にいれる。屋内の駐車場から外に出てびっくり。吹雪いている。道路が雪で覆われている。タイヤのチェーンがないのだけれど、大丈夫だろうか。ギアを最低速にして、上り坂をゆるゆると進む。ステアリングをしっかりと握っているのに、タイヤが左右にぶれる。怖ろしい! 周りの車もおっかなびっくり。4WDですら滑っている。除雪車が来るのを待つべきか。家までは1マイルもないのに……。なんとかじわじわと坂を上り、やっとの思いで自宅に到着。手に汗握った。いくら近いからとはいえ、雪の日にチェーンを付けずに走るのは無謀だったと反省した。ところで、車を動かさずに取り付けられる簡易着脱型のタイヤチェーンを発明したのは作家・安部公房氏である。1986年にニューヨークで開催された国際発明家エキスポで、彼の発明は銅賞に輝き、特許も取ったのだ。わたしの卒論のテーマは「安部公房論」だったので、彼の功績には若干詳しいのだ。タイヤチェーンと言うと、彼のことを思い出す次第。そんなことはいいとして、雪の日のタイヤには、チェーンを。 |
ジムに行くつもりで着替えた。椅子に座ってスニーカーの紐を結びながら、何気なくコンピュータの画面を見た。ニューヨークタイムズのサイトに雪のハドソン川のほとりをジョギングする人の写真。それを見たら、無性に外に出たくなった。きっと彼も、ぬくぬくとした部屋でじっとしているのに、耐えられなかったのだろう。ダウンジャケットを羽織り、手袋とマフラーをして、わたしも外に出ることにした。雪の日の世の中は、白くて、静かで、平和な様子だ。大きなショベルで雪かきをするご近所さんに笑顔で挨拶をしながら、ふかふかとした雪を踏みしめて歩く。なだらかな斜面のある広場では、子供たちが橇遊びをしている。USPSのお兄さんが、ゆっくりゆっくりと、郵便を配達している。木枝に降り積む雪の具合も、三角屋根の家々の情趣も、ブリューゲルの絵の中に紛れ込んだよう。 |
お風呂仲間。 |
JANUARY 24, 2005 厳寒マンハッタン到着! |
●DCの朝は快晴。夜明け前、カリフォルニア出張の夫を送りだしたあと、わたしも家を出る。アムトラックは雪景色のなかを北へ走る。途中で激しく吹雪くところもあったけれど、遅れることなくマンハッタン着。カーネギーホールの向かいにあるホテルにチェックインして、今日は寒くても街歩き。ホテルのドアマンが「寒いからお気を付けて。でも、先週よりはいいですよ。なにせ、華氏0度になったんですから!」華氏0度と言えばマイナス18度。今日はマイナス10度ほど。まず、近所の靴屋で防寒用のブーツを買う。カナダ製の、暖かくて滑りにくいブーツ。これでぬかるんだ道も歩ける。今日はハンドバッグを買うため、ブティックやデパートを巡るのだ。なにもこんな寒い時に、という気がしないでもないけれど。五番街、57丁目、マディソン街をひたすら歩く。路肩や交差点に雪かきされたあとの雪山ができている。これもまた、冬のマンハッタンの風物詩。とはいえ、ゆるくぬるびもていけば……わろし。 |
●巡り巡って、同じ店を行ったり来たりして、ついにハンドバッグを買った。映画を見に行くつもりだったけれど、もうすっかりくたびれたし、日が暮れると寒さがしみる。ホテルの近くで夕食をとろうと、なじみのギリシャ料理の店"Molyvos"へ。そういえば、去年の今頃、マンハッタンに来た時も、ものすごく寒かったから、ホテルの近くのレストラン、それもギリシャ料理の店へ行ったのだった。こことは別の店だけれど。ギリシャ料理をそんなにしばしば食べるわけではないのに、なぜかいつも、寒い日だ。ギリシャの赤ワインを頼み、アペタイザーを2種類、頼んだ。バー近くのテーブルは、一人のゲストがたくさんで、隣の若い男性は本を読みながら、となりのおじさんは携帯電話で話をしながら、食事をしている。わたしは賑わう会話の渦の中で、ぼんやりと人々の様子を眺めながら、オリーブオイルとガーリックの風味がほどよい、タコの足を切る。するとたこ焼きを思い出し、無性にたこ焼きが食べたくなる。 |
JANUARY 25, 2005 寒くても、歩くのだ。 |
●朝。凍て付く窓の向こうに広がるのは青空だった。寒そうだけれど天気はいい。今日もしっかり防寒して出かけよう。新しいバッグを持って。鮮やかなオレンジ色と、真新しい皮の匂い。 ショーウインドーに映るバッグの愛らしさに、ちょっとわくわくする。 |
●午前中の用事をすませ、午後は久しぶりに、行きつけだったIZUMI SALONへ行った。いづみさんに髪を切ってもらうのは2年以上ぶり。時間は流れて、髪は伸びて、歳を重ねて、皺や弛みも増えるなあ……。 冬の平日3時15分開演の映画館。そこは怖ろしく静かな場所。そこで、「アラキメンタリ」を観た。ニューヨーク在住の若手映画監督による、写真家、荒木経惟氏のドキュメンタリー。ノンストップで沸き出す感じ。記録したい衝動・本能。それを見せたい衝動・本能。日本。東京。東京。東京。 しかし、それにつけても、わたしはほんとうに、東京が辛い。たとえ言葉は通じても、Lost in Translation。うつろな気分だ。 |
●映画を観た後、また街を歩き、夫へのプレゼントを買う。新しい門出を間近にひかえて、新しい名刺入れを。 夕食の待ち合わせの前に、キャンディーショップでホットチョコレートを飲んだ。ベルギーチョコを削った物に、熱いミルクをそそぎ入れてくれる。本当なら、更に砂糖を加えてくれるのだけれど、砂糖なしで、とお願いして。ほんのりとした甘みの、おいしい飲み物。そういえば、6月に映画"Charlie and the Chocolate Factory"が封切られる。ジョニー・デップの。彼はとてもチャーミングだ。早く観たいな。 |
●最近は、コンテンポラリーな日本料理店が次々にオープンしていて、店名はしかし、「べた」だけれど、友人に誘われて出かけた「芸者」。ムンバイのタージマハル・ホテルにオープンした高級日本料理店「わさび」のネーミングといい勝負だ。 平日だというのに店は大いに込み合っていて、シャンパンを飲みながら、この街で進化する日本料理を味わう。 マンハッタンならではの独特のムード。そこはもう、日本に住む日本人が知らない、日本料理の世界。 |
●食事の帰り、タクシーを拾おうかと思ったけれど、ホテルまではさほど遠くないことに気付いて、歩く。 セントラルパークの南端を、歩く。池はすっかり凍て付いて、白く降り積もった雪が街灯に照らされている。誰もいない。静かな夜。ちょうど近くを通ったので、父の「墓参り」をした。雪に埋もれていたけれど、雪好きの父にはぴったりだ。 |
●雲間から光。凍て付いているよ満月! |
JANUARY 26, 2005 人と会い、食べて、観て、あっというまに。 |
●ホテルのそばのベーカリー&カフェでブレックファスト。Le Pain Quotidien。先月、ABCカーペットでレモネードを飲んだのと同じ店。 昔、この場所には、バレエやフラメンコのコスチュームショップがあった。 11時に、友人とランチの約束をしているので、朝食は軽めに。カフェラテと、巨大なマッシュルームみたいなブリオシュ。 |
●几帳面に整列した、つやつやと光るもの。茶色のグラデーション。滑らかなチョコレートの姿は、どうしてこんなにも魅惑的なのだろう。ラ・メゾン・デュ・ショコラのショーウインドーを、通り過ぎることはできなくて、いつもじっくりとのぞき込んでしまう。シンプルで品のいい、宝飾品のようなチョコレート。 |
●友人とランチを食べ、それから日本の書店に行き、仕事の打ち合わせに行き、会計事務所へミューズ・パブリッシングの年度末会計を届けに行き、もう今年は会社を閉じるかもしれないから、そこでずいぶんと長話をして、それからカフェで休憩をして、外へ出たころには夕方で、そのまま何とはなしにブロードウェイまで歩き、そうだミュージカルを観ようと思い立ち、宮本亜門のPasific Overtures(太平洋序曲)、或いはFiddler On The Roof(屋根の上のバイオリン弾き)を観ようかとも思ったのだけれど、当日券売場に行ったら、Hairsprayのチケットが売られていて、なんだか明るく元気なミュージカルを観たいと思って、それに決めた。上演時間までにディナーをと思い、昔住んでいたあたりの方へ自然と足が動き、よく出かけていたイタリアンレストラン"Puttanesca"へ行った。メニューの内容も味も、あんまり変わっていなくて、なんだかそれがうれしかった。自分自身が、動いているからこそのノスタルジー。自分自身が、変化しているからこその懐かしさ。 |
●Hairspray。1960年代前半のボルティモアが舞台。女優に憧れる小柄で太った女の子が主人公。人種差別が色濃く存在していた当時の社会が、コミカルに表現されてもいた。ストーリーはさておき、カラフルでチアフルで、曲も歌も楽しいミュージカルだった。 |
JANUARY 27, 2005 朝ご飯を食べて帰ります。 |
今朝は猛烈に寒い。朝から華氏7度(摂氏マイナス14度)。午前中しばらく街を歩いてから帰る予定だったけれど、朝食を食べにカフェに行く間にもう、くじけた。血管まで凍結しそうだ。ダウンジャケットの帽子を被って「エスキモーファッション」にしたところで太刀打ちできない。デストロイヤーみたいなマスクがいる。朝ご飯を食べて帰ろうと思う。またしても、Le Pain Quotidienへ。この店は、素材の全てがオーガニック。サンドイッチもヘルシーな物が多い。本当はスープを頼むつもりが、まだできていなくて、だからサンドイッチにした。悩んだ挙げ句、アボカドと、海苔(Nori Seaweed)、ネギのサンドイッチ。かなりあっさりしたビーガン(Vegan)向けの料理で、胃腸はすっきりしそうだけど、パッションが沸かないな、という感じの寝ぼけた味。ここまでするなら、軽くしょうゆ味をつけてほしかった。そんなこんなで、楽しいマンハッタン滞在も終わり。駅では案の定、冷凍庫と化しているボストンからの列車がキャンセルやら遅れやらで、1時間半も待ったけれど、無事に明るいうちに帰宅できた。夫も深夜1時に帰宅予定。今夜はエッグノッグでも作ろう。 |
JANUARY 27, 2005 困るお土産。 |
「今年は渡米前の体重に戻すのだ!」 |
JANUARY 28, 2005 イタリア人の知らないイタリア料理 |
買い物に行っていないので、冷蔵庫はほとんどからっぽ。こんなときこそ、「不思議料理」が誕生するとき。しなびかけたアスパラガスとセロリを取りだし、冷凍庫の手羽先を解凍。うむ。タマネギすらない。こんなときは缶詰が活躍。トマトスープに、ファイヤーローステッドのホールトマト……。バターとオリーブオイルで鷹の爪を炒め、本当はニンニクも欲しいところだがないので材料を入れて炒め、あとは缶詰をダバダバと注いで煮込む。途中で味見。いい感じに旨味がでているが、もうひとつ、アクセントが欲しいところだ。オリーブの粒をまいてみたら、いい感じ。火から下ろす直前に、賞味期限ぎりぎりのモッツァレラチーズを載せて蓋をして、とろ〜りとしたところで器に入れる。軽く焼いたパンを添えて、イタリア人の知らないイタリア料理のできあがり。 ※それなりに見た目のよいまともな料理を作ることもあるけれど、なぜかワイルドな出来のものばかりを載せてしまいます……。 |
JANUARY 29, 2005 はくしょん大魔王 |
日ごろから「免疫力向上」を心がけたライフスタイルだけれど、やられてしまった。夫はカリフォルニアにいる間に治っていたけれど、彼のウイルスを引き継いでいたわたしは、ニューヨークの寒さで一気に抵抗力を落とした様子で、帰宅直後からくしゃみ鼻水鼻づまり。微熱も少々。朝からショウガ紅茶やらハーブティーやらオレンジジュースやアップルサイダーや、もう、風邪と闘う飲み物をたっぷりと摂取しているのだが、追いつかない。これは夫が風邪を引いていたときに買ってきていたハーブティーの数々。それぞれのブランドが、何種類ものハーブティーを出していて、パッケージもかわいらしくて、でも鼻が詰まっているので、どれを飲んでも、何がなんやらわからない。それにしても、気が付けば「贈る言葉」を歌っている自分に脱力……。 |
JANUARY 30, 2005 静かな、雪の日曜日。オーブンから、いい匂いが立ちこめる。 |
まだしばらくは、座る人のない、ベンチ。 雪を載せて待つ遠い春。 |
風邪が抜け切れず、珍しく食欲がないという夫に、それでは好物のブレッド・プディングを焼こうと思う。本棚にあるレシピブックを見比べる。日米それぞれ、似たり寄ったりだが微妙に異なる。見比べた挙げ句、最も簡単かつおいしそうな作り方を導入してみた。表面はパリッと、中はしっとりフワフワで、とてもおいしく焼き上がった。 マルハン的アップル・ブレッドプディング(2〜3人分)●サイコロ状に切ったパン両手いっぱい(今回はレーズン入りのジュイッシュのパン、ハラブレッドを使った。ブリオッシュやバケット、食パンなど、好みのパンで。)を軽く乾燥させておく。古めのパンならそのままで●牛乳400ccくらいに砂糖大さじ2〜3杯、好みでヴァニラエッセンスやシナモンパウダー、ラム酒などを加えて混ぜる。それに軽く撹拌した卵1個を加える●パンをその液体に浸しておく。その間に、リンゴ1個をサイコロ状に切って、適量のバターで炒める。いい香りがする●リンゴも混ぜて、バターを塗った耐熱容器に入れ、お湯を張ったロースティングパンに載せ、華氏350度に熱したオーブンで40〜50分ほど焼く。◆リンゴのかわりにバナナのスライスを入れたら、バナナ・ブレッドプディングに! ブルーベリーやクランベリーをいれてもおいしそう。あと、レーズン入りのパンを使わない場合はレーズンを加えたり、クリーミーにしたい場合は牛乳に生クリームを加えてみたり、甘みの加減もお好みで。卵黄だけ1個分増やしたら、こくが出ていいかも。かなり好き勝手に作っても、それなりにおいしくできあがると思います。 |
JANUARY 31, 2005 1月には、悪いけれど。 |
この街の1月は、ほんとうにつまらないのだ。 |