AUGUST 31, 2004  Heartfelt Thanks

お誕生日、ありがとう。

 

AUGUST 30, 2004  東南アジアの食卓

本日の夕餉は「ベトナム風揚げ春巻き」と、タイの米麺料理「パッ・タイ」。近所のスーパーマーケットでは揃わない素材もあるけれど、ライスペーパーと米麺(平べったいきしめん風)、魚醤があれば、あとは手近な素材でなんとかなる。魚醤は日本語でしょっつる、ベトナム語でニョクマム、タイ語でナンプラー、中国語で魚露(ユイルー)、英語でフィッシュソースと呼ばれる醤油。使用を憚られるほどの強烈な臭みがあるが、深い旨味を出してくれる。春巻きの具は、豚肉やエビ肉、タマネギ、干し椎茸、春雨、香草(中国語でシャンツァイ、タイ語でパクチー、英語でコリアンダー)など。その他キクラゲやタケノコなどをいれてもいいようだ。ライスペーパーは、乾いているときは割れやすく、湿っているとくっつきやすく、慣れるまでは扱いが難しい。揚げた春巻きは、たっぷりのレタスとミントを添えて、たれ(今回は市販のたれを使用。美味)をつけて食べる。パッ・タイは、好みの肉やエビ、硬めの豆腐、卵などを炒め、もどした麺を加えて調味し、最後に火を止めた後、モヤシやニラなどを加えて、砕いたピーナッツをパラパラと振りかける。食べる前にきゅっとライムを絞って。パッ・タイは初めての試みにつき、反省点あり。2回、3回作るうちに、コツがつかめてくるだろう。

 

AUGUST 29, 2004  ひぐらし

蒸し暑い日曜日。日がな一日、部屋に籠もって、過ごす休日。風が起こり始める夕暮れどきにはせめて、外の空気を吸いに、散歩へ出よう。専らの話題は、夫の仕事と、近い将来の動きと、それにかかわるせめぎあいのあれこれ。15年以上、一人で暮らしてきて、独立独行を、むしろ清々しいくらいの思いで生きてきた。思えば結婚してからまだ3年。自分中心の暮らしから二人中心の暮らしに移ってまだ浅い。折り合いのつかぬさまざまが起こったとしても不思議ではない。

散歩の帰りに、まるで金曜日の夜のような賑やかさのレストランにふらりと立ち寄り、1杯のビールを少しずつ飲み、イカのサラダと、鴨肉の料理を、静かに分け合い食べながら、思い思いの視界と思慮と。

カナカナカナカナ……と、ひぐらしの声が降り注ぐ、夏の終わりのテーブルで。
こんな優しげなひとときが、あることをこそ思えば。

 

AUGUST 28, 2004  州の個性

米国には51の州がある。各州に、ニックネームがあり、モットーがあり、州花があり、州鳥がいる。
たとえばNYのニックネームは「エンパイア・ステイト」。DCは「キャピタル・シティ」。
NYのモットーは"Ever upward"(常なる上昇)、DCは"Justice to all"(全てに対し、正義を)。
NYの州花は、Rose。DCは、American Beauty Rose。
NYの州鳥は、Bluebird(ルリツグミ)。DCは、Wood thrush(モリツグミ)。

米国の自動車のライセンスプレート(ナンバープレート)は、各州それぞれに、色々な種類がある。そのバラエティの数は州によってことなり、たとえばお隣ヴァージニア州には鳥やらカニやら勲章やらと、何十種類ものカラフルなデザインがある。さて、写真は近所に停められていた、フロリダからの車。海の水色の爽やかさ。ウミガメの赤ちゃんのかわいらしさ。

 

AUGUST 27, 2004  重宝する食材

日本に帰国した折に、買いだめてきた、軽くて美味しくて日持ちするものシリーズ。

剣山で梳いて作られたという剣山茎ワカメは、普通のワカメやキクラゲとともに海草サラダに。
大分産の干し椎茸は、風味抜群のだしが取れる。もどした椎茸は煮物や炒めものに。
高野豆腐は夫の好物。Hairy Tofu(毛深い豆腐)と、まずそうな表現をしながら、おいしそうに食す。
乾燥ニンニクはことのほか重宝。鷹の爪などと一緒にオリーブオイルで炒めて、多彩な料理に活躍中。
昆布ちりめんは、あつあつごはんでおにぎりに。アボカドサラダにふりかけてもおいしかった。
長崎産の芽ひじきは、油揚げと一緒に炊く。つやつやと見目麗しく仕上がり、ことのほかおいしい。
日本産のひじきに発ガン性があるとの噂を聞いたのだけれど、本当なのかしら。
こういう素朴な食材が、矢面に立たされるのを見聞きするのは、何かしら心が痛む。

 

AUGUST 26, 2004  花

顔を寄せて、匂いを嗅いでみずには、いられない。

指先で、花びらにそっと触れてみずには、いられない。

 

AUGUST 25, 2004  クッキング・クラス

アパートメントのオフィスが主催するクッキング・クラス。本日のレシピはタイ料理。
チキンのココナツミルクカレーとフィッシュソテーのグリーンソース。それから、ジャスミンライス。
前回の料理に比べると、今回はいずれも今ひとつのお味。
ココナツミルクを煮込んで半量にするなど、時間がかかる割に、成果が味に反映されず。
ジャスミンライスが一番おいしかった。でも、米を研がずに炊いていたのが気になる。無洗米?

とはいえ、前回参加者は女性ばかりだったけれど、今回は爽やかな男子2名も加わって、場が華やぐ。
このアパートメントには国際機関で働く人が多いせいか、参加者はアメリカ人よりも外国人が多い。
そんな参加者たちとおしゃべりすることが、レシピを学ぶよりも楽しかったりする。

 

AUGUST 24, 2004  今年のいちご。

今日は友人に連れられて、ヴァージニア州のアナンデールへ。ここはコリアン村。とでも呼びたい。
ハングル文字が踊る街角の、一見地味な
レストランへ。豆腐チゲと骨付きカルビ。これがおいしくて! 
食後はコリアン・ベーカリーで、ついついストロベリーショートケーキなどをデザートに。
日本のパン屋を彷彿とさせるその店で、明日のためのパンを買う。コロッケパンは夕餉の一品。

わたしはランチを食べ過ぎて、夕食作りに力が入らず。なんとなく簡素な料理を夫のために。
冷蔵庫から、もう季節が終わりかけのイチゴのパックを2つ、買っていたのを取りだして、
イチゴジャムを作る。部屋中が甘い香りで、すばらしきアロマセラピー。

この間、作ったときには、まだ父は生きていたんだなあと思いながら。早くも三カ月。

 

AUGUST 23, 2004  やめられない!

週末、海辺のパズルの専門店で、何気なく買った1000ピースのパズル。ワシントンDCのイラスト地図。専用のフエルトシートまで買っているあたり、抜かりがない。月曜日といえば最も忙しい一日。午前中はたいてい、掃除洗濯家事一切。にもかかわらず。あと5分、あと10分、とやっているうちに、あっというまに正午過ぎ。大急ぎで掃除をすませ、大急ぎで仕事をすませ、またしても、パズルに向かう。このイラスト地図がよくできていて、地図好きのわたしには、堪えられないのだ。だめだ、他にもやることがあるではないか、と腰を上げてはみるものの、リビングルームを通過するたび、パズルの前に座り込む。せめて勉強しながらやろうと、発音のCDを流しながらやってはみるものの、パズルに集中しすぎて、ちっとも聴いてやしない。全世界のパズルファンには悪いけれど、非常に無為な時間を送っているような気がしてならず。もうパズルはこれが最初で最後だ。と言ってる先からインターネットで検索。同じ地図のシリーズがあるのを見つけた。うっかりニューヨークとかボストンとか、キーウエストとかケープメイのパズルを買ってしまいそうでいけない。いけない!

 

AUGUST 22, 2004  最後にもう一度

帰る前に、もう一度、ビーチへ行こう。あと1時間くらいは、ここにいよう。
水着には着替えずに、ただ、裸足で砂浜を、しばらく歩く。
また、秋になったら来よう。そのときは、サイクリングをしよう。
それから、船でケープメイまで行ってみよう。

帰りはわたしが運転した。シャンパンでほろ酔いの夫は、すぐに眠ってしまった。
途中のファーマーズマーケットで野菜や果物を買った。
トウモロコシやメロン、ピーチ、ズッキーニなど。地元の畑で穫れた新鮮なものばかり。

また、ベイブリッジを渡って、DCに戻る。水面がキラキラキラキラ、とてもきれいだった。

 

AUGUST 22, 2004  光と風とブランチ

もう、午後には帰らなければ。なんて短い2泊3日。
静かなランチのために、ルイス
まで車を飛ばす。ヴィクトリア建築の、エレガント
ブランチメニューには、シャンパンとフルーツが付いている。
グラスの底からゆらゆらと泡。光を透かして、ことのほか、美しい。

木の葉も風に、ゆらゆら揺れる。シャンパンが、身体に染み込む。ぼんやりとする。
またもやクラブケーキ、そしてヒラメのグリルを食べた。
もう、このままハンモックにでも揺られてまどろみたい、和やかな午後。

ああ、明日は月曜日だなんて!

 

AUGUST 22, 2004  船遊び

森のはずれの運河には波止場があり、幾艘もの船が係留されている。

水辺に伸びる桟橋の、一番遠いところまで歩く。

そこは、水面を滑る風がそよそよ届く、とても気持ちのよい場所。

桟橋にゴロリと寝転んで、天を仰ぐ。麦藁帽子の隙間から、水玉模様の空がのぞく。

時折、ボートの音が聞こえてくる。起きあがって、手を振る。

 

AUGUST 22, 2004  海のほとりの芸術家

夕べは夜遅くまで、海辺をドライブした。静かな浜辺を静かに歩いた。
灯台の光。船の光。そしてかすかな月星の光。夜の海はまた、波音が迫って深く。

そして快晴の朝。やっぱり、青空は気持ちがいい。朝食をすませ、散歩へ出かける。
宿の近くの、静かな木立で、アート・クラフトのイベントが行われていた。
地元のアーティストらの作品が、
あちらこちらに、展示されている。
楽団の奏でる、南の国のメロディー。のどかな夏の日。
露店で絞りたてのライムジュース(ライムネード)を買って、飲みながらそぞろ歩く。
こういう場所を訪れると、絵筆をとってみたくなる。

 

AUGUST 21, 2004  雨もまた、をかし


(これは、翌日の写真)

情趣のある、古い家並みが続く、小さな港町。アンティークショップやブティックを覗いて歩く。
それからパズルの専門店で、しばらく過ごす。いくつもの「智恵の輪」に悪戦苦闘する。
長い時間、遊んだので、そのまま店を出るのも気が引けて、ジグソーパズルを、一つ買った。
アイスクリームを買って、桟橋で食べた。それからカフェのある本屋でコーヒーを飲んだ。
本屋とカフェは、すてきな組み合わせ。花屋とティーハウス。も、あればいいのに。
店を出たら、急に空が
かき曇ってきた。「急ごう!」とわたし。「まだ大丈夫だよ」と夫。
と、突然に、雷鳴と大粒の雨! 「うわ〜!」「うひゃ〜!」と叫びながら、車まで走る。

遠くどこまでも続くトウモロコシ畑の中。真っ直ぐに伸びる一本の道を走ってゆく。
大粒の雨に打たれて、囂々と音に包まれて、車の中は、まるで隔絶された空間。鎮まる心。
車も、世界も、激しい雨に洗われて、すっかりきれいになっていくさまを眺めながらゆく。

 

AUGUST 21, 2004  The First Town in the First State

午前中を海辺で過ごしたあと、車で隣町のルイスへ行った。米国の「最初の州の、最初の町」。
1631年にオランダ人が入植したという、米国で最も古い町らしい。
この町の埠頭からは、ニュージャージー州のケープ・メイへゆくフェリーが出ている。
ケープ・メイは、わたしたちが好きなビーチ。ニューヨークにいたころ、何度か行った。

ルイスはとても小さく、のどかで味わいのある町。本当はこの町に泊まるつもりでいたのだ。
これは、米国が独立した1777年当時の旗。Francis Hopkinsons Flag。当時の州数を示す13の星。
小さな
ビストロで、ガスパッチョと、クラブケーキ(カニ肉)のサンドイッチを食べた。おいしかった。

午後は、この町で過ごした。

 

AUGUST 21, 2004  夏休みのアルバイト

9月が終わるころまでは、海辺の宿は書き入れ時。直前に決めたこともあり、宿はどこも満室だった。
そうして、どの宿も、シーズンオフの2倍以上の値段で、その高さたるや呆れるほどだ。
わたしたちの泊まった
宿も然り。設備とサービスが、値段に遥か及ばない。
そして朝ご飯。パン(もそもそ)もワッフル(ごわごわ)もジュース(濃縮還元)もおいしくない。
フルーツとスクランブルエッグだけを食べた。コーヒーはよかった。

「君はどこから来たの?」少し訛のある英語を話す、テキパキと働く若い女性に、夫が尋ねた。
「ウクライナから。夏休みのアルバイトなの」
他のスタッフも、他国の学生たちのようだ。
高い宿代も、彼らの報酬の一部になるのなら悪くない。と、少し気を取り直す。
だけど1泊税込みで240ドルは、高級リゾートじゃあるまいし、やっぱり、あまりに高すぎる。

 

AUGUST 20, 2004  甘い匂いのする街で

大西洋を望むレホボス・ビーチ。ボードウォークが真っ直ぐに続くビーチリゾート。
ダウンタウンの海辺は人が多いので、町はずれの、国立公園内の海へ行った。
週末は天気が崩れるとの天気予報だったけれど、雨は降らず。曇天だけれど、気持ちいい。
日暮れ時。帰り支度をする人々と擦れ違うように、わたしたちは海に出る。
夏はまだ、日が長い。もうしばらくは、海にいられる。
波打ち際の砂は、柔らかく滑らかで、踏みしめれば、不思議な感触。遠い岩場まで歩く。
夜は賑やかな街に出て、ソフトシェルクラブやロブスターを食べた。
甘いキャンディやアイスクリームの匂いに誘われ、
Ben & Jerry'sで、買ってしまった!
ワイルドな、
バナナスプリット。二人でわけても食べきれない。(生クリームがモサモサ!)
夜が更けて、静かになったボードウォークのベンチに腰掛け、海を聴く。

 

AUGUST 20, 2004  週末は海辺で。

金曜日。午後からオフを取った夫と、2泊3日の小旅行。
行き先は、デラウエア州の小さな海辺。この夏、初めての海。
ワシントンDCの市街を横断し、ニューヨーク・アヴェニューからルート50に乗り換えれば、
やがてチェサピーク湾が現れる。そこに架かる
ベイブリッジを走り抜けるときの爽快!
広い川や、湾や、海に横たわる橋をスイスイと、滑りゆくのは本当に楽しい。水面が眩い。

メリーランド州を過ぎ、デラウエア州に入るころから、あたりは一面、トウモロコシ畑。
時折小さな街が現れて、休憩したり、運転を交代したり。
わずか120マイルだというのに、ゆっくりと走る道が多くて、3時間以上もかかってしまった。
B&Bにチェックインして、夕暮れの海に出かけよう。

 

AUGUST 19, 2004  チーズケーキの工場で。

1940年代のデトロイト。妻は夫のもとで働く社員のために、チーズケーキを焼いた。その味わいは好評を博し、やがて彼女は小さな店を開く。育児に専念するため、一旦は店を閉じたものの、子供たちが巣だった1970年代、夫妻はロサンゼルスに渡り、昔の夢を再びと、またチーズケーキの店を開いた。20種類を越えるさまざまなチーズケーキは、新天地でも瞬く間に人気を集め、更には息子がレストラン部門をオープンさせ、チーズケーキファクトリーは着実に、全米に店舗を広げていった。この店のメニューは絵本のような彩りと分厚さ。欧米の味、アジアの味。多彩な料理は目を見張るほどのボリュームで、だけれど、他のダイナーやレストランにはない、味わいのよさがある。出されるパンもバターもおいしい。今日はルーマニア人の友人と、ミシシッピから遊びに来ている彼女の元ホストマザーの3人でテーブルを囲んだ。なぜか3人とも同じ料理Thai Lettuce Wraps(前菜)を選ぶ。レタスで具を包みながら、手を汚しながら、頬張りながら。オリンピックの話、旅の話、この店のオーナー夫妻のアメリカンドリームの話などを延々と。わずかにその背景を知っただけで、愛着を覚えるから不思議。食後、カラメル風味のチーズケーキを3人でわけた。以前食べた時よりも、おいしく感じるから不思議。

 

AUGUST 18, 2004  カラフルなテーブル

友人に誘われて、この春にオープンしたばかりのマンダリン・オリエンタルホテルでランチ。
「食への探求心」が旺盛な彼は、DCのレストラン事情に明るく、この店もまた、彼のお勧め。
ダイニングのシェフは日本人男性で、メニューには、和洋の響きが交錯する料理名が並ぶ。
窓辺の、埠頭を見下ろすテーブルで、果物や花の香りがほのかに漂うアイスティーで乾杯。
やがてテーブルに届いた、まるでパレットのようなアペタイザーの美しさに目を見張る。
ぷっくりと大粒の、ほの甘く、極めてミルキーなオイスター! 柑橘果汁のさっぱり。
ホースラディッシュのぴりり。和風だしのふんわり。プラムソースのきりり……。
上品なジュエルが施されているように、ひとつひとつが、バランスのよい味わいでうっとり。
アントレには、わたしは鱈の西京味噌焼き風を、彼はランチボックスを。これもまた美味なり。

月末の我が誕生日に先駆けて、今日はそのお祝いにと。本当に、ごちそうさまでした。

 

AUGUST 17, 2004  豪奢な書斎

気を散らすための誘惑が多い部屋では、時として、無為な時間を送ってしまう。
自制心が利かないときこその、「書き場所」を探しての放浪。
バスに揺られて、
連邦議会議事堂の裏手にある、議会図書館へ。
閲覧室に入るために、まずはID(身分証明書)を発行してもらい、
三つからなる建物のひとつ、
トーマス・ジェファソン・ビルディングへ。
その壮麗な
内装を、しばらくは、眺め歩く。
そうして、しんと静まり返った、そのリーディング・ルームへ。
見事な装飾が施された
クーポラや彫像や、ステンドグラスを眺め、ため息。
そうしてようやく、何かたいそうなことを書き記すかのような心持ちで、
ペンを執るころには夕暮れ。

 

AUGUST 16, 2004  風と木の実。

今日もまた、心地のよい風が吹いていたので、ノートブックを携えて、大聖堂の裏庭へ行った。

ここは本当に静かだ。聞こえてくるのは、木の葉のざわめき。鳥の声。遠い飛行機のうなり。

あと、ときおり、木の実が、ぽと、ぽと、ぽと、と落ちてくる音。

追いかけっこをして遊ぶリス。小さな蟻が、腕に上ってくるのが玉に瑕。

書くよりも、ぼーっとしている時間の方が、ずいぶん長かったように思う。

 

AUGUST 15, 2004  庭と主(あるじ)

いくつかの花の種子を、こう、ぱーっとばらまきましたらね、こんなふうになったんですよ。

そんな感じの、自由奔放な

 

AUGUST 14, 2004  GARMIN

「僕たちは、もうGARMINなしでは、いられないね」

友人に会いに、アーリントンの、小さな街の、タイ料理レストランを訪れた。
マンゴー・マルガリータを飲み、魚介類を食べ、ココナツアイスで締めくくり、夜が更けて、家路へ。
ハイウエイを下りて、灯りも標識もない、くねくねと蛇行する森の道をゆく。
GARMIN、本当に、この道? GARMIN、僕らは今、どこにいるの?
雨上がりの濡れた緑の匂いがする。湿り気のある、けれど心地のよい風が吹き込んでくる。
雲に覆われた空は、街の明かりを受け止めてオレンジ色。そこはかとなく、夢の中。
やがて見慣れた橋が現れ、ここまでくればもう、家までの道のりがわかる

GARMIN。それはわたしたちの、カーナビゲーションシステム。

 

AUGUST 13, 2004  本とシーツとブナの木と。

新しいシーツを買いに、Bed Bath and Beyondへ行った。綿100%のシーツを探していると、PURE BEECH 100% NATURAL FIBER SHEET SET という文字が目に飛び込んできた。サンプルを触ってみると……わっ! 気持ちいい!! 何だろう、ピュア・ビーチって……と、説明書きに目を走らせる。このシーツは、中央ヨーロッパのビーチウッド(ブナの木)で作られた、100%天然のMODAL(モダール)という繊維でできているという。ほほう。シルクと綿ジャージーを合わせたような、滑らかで柔らかな肌触り。湿気の吸収率は綿よりも50%高いとか。へぇ〜。きっと衣類などにもよく使われている素材なのだろうけれど、今日の今日まで、ブナの木製の繊維のことなんて、知らなかった。これは試してみるべし。

帰宅して、調べてみたところ、古代ゲルマン人は、滑らかなブナの木に文字を記したという。そうして、BOOKの語源は、BEECH、つまりブナの木なのだという。なんとなく、寝ている間にも、賢くなれそう。

 

AUGUST 12, 2004  夕映え

炎が揺れてるみたいだ。

西日を映した、カテドラルの窓。

 

AUGUST 11, 2004  花

数カ月前、アパートメント・オフィスのマネージャーが、新しい人に替わった。
ここ数年のうちに、数名が、入れ替わったけれど、今回の変化は顕著だった。
月に一回のお料理教室を主催してくれたりー有料ではあるけれどー、
契約を更新した折には、
商品券をプレゼントしてくれたり。

けれど何よりうれしい変化は、エントランス・フロアの花だ。
新鮮な花がたっぷりと、そこに生けられるようになってから、扉を開く瞬間がうれしい。
「おかえりなさい」と、甘酸っぱい花の香りが、出迎えてくれる。
野に咲く花も、生けられた花も、いずれの花も、花は心を潤してくれる。

 

AUGUST 10, 2004  蝶々

では、わたしが32歳を迎えた夏は、どうだっただろう。渡米一年後。すでに語学学校をやめ、日系出版社に勤めていたわたしは、水面下で「独立」の機会を狙っていた。7月1日付でMuse Publishing, Inc.を設立し、それから数カ月間は就労ビザを取るため東奔西走した。誰にも気づかれないようにこっそりと。もしも勤めている会社に見つかって解雇されでもしたら、適切な滞在ビザを失い、たちまち日本に帰らなければならないから。困難はあったけれど、その年の暮れ、遂にビザを獲得し、翌年からMuse Publishing, Inc.の業務を開始したのだった。

32歳になりたての夫もまた、インド行きに向けての具体的な方策を練り始めたところ。彼にとっても「32歳」は、きっと大きな転機となるだろう。さて、わたしの次なる転機はいつだろう。DCに移って以来の心の余裕は、「踏み切る力」の充電につながっているだろうか。やや漏電気味のような気がしないでもないけれど。ともあれ、あまり自分を律せず、今はひらひら、ふわふわと、花から花へ舞い飛ぶ蝶に倣って。

 

AUGUST 9, 2004  HAPPY BIRTHDAY!

今日は夫の誕生日。好物のエクレアでも焼こうかと思ったが、彼は明日から出張だから持っていけるものを、と簡単な絞り出しクッキーを焼く。午後には外出したにもかかわらず、プレゼントを買いそびれ、だから今日は目新しい料理を作ってお茶を濁そう。好物のラムチョップにしようかとも思ったが、オッソ・ブッコ(子牛のすね肉)に引きつけられた。オッソ・ブッコはトマト風味で煮込むのがおいしいけれど、今日はリッチな風味にしたいので、ビーフストロガノフ的要素を加味しよう。最早実験である。じっくりと飴色に炒めたタマネギに、トマトソース、赤ワイン、バターなどと各種スパイス。塩コショウし小麦粉をまぶした肉は、別のフライパンでこんがり風味よく焼いたあとソースと合わせる。そうしてぐつぐつ煮込む。終盤に炒めたマッシュルームや生クリームを加えて出来上がり。付け合わせはマッシュドポテトにアスパラガスソテー、トウモロコシ、そしてバケット。赤ワインとともに、テーブルへ。もっと長時間煮込んで1日冷蔵庫で寝かせて翌日食べるのがおいしい、という感じの味わいだったが、それでも実験的なわりにはとてもおいしくできあがった。お皿に残ったソースはパンできれいに拭き取られ、すっかりお腹いっぱい。32歳おめでとう。まだまだ本当に、若いね〜。

 

AUGUST 8, 2004  幸せなご近所

夕べは遅くまで、DVDで映画を観ていた。目覚めたらすっかり日は高く、ヨガをして、半身浴をしながら本を読み、ブランチを食べ終わったころには1時を過ぎていた。明日、誕生日を迎える夫は、何を思ったか、アルバムをひっぱりだして、しみじみと見ている。わたしはときどき、そういうことをするけれど、彼は滅多にしない。とても珍しいことだ。コーヒーを飲みながら、わたしもアルバムをめくる。初めて二人で旅行した雪のヨセミテ国立公園。そして、イタリア、南フランス、スペイン、カリブ海、日本、ベルギー、ポルトガル……。本当に、いろんなところへ行ったものだ。これからも、もっといろんなところへ行くのだろう。さて。と、リュックサックにノートと、マットと、チョコレートと、水を詰め込んで、大聖堂の庭へ行く。人が少ない裏側の、静かな日陰の芝生。空を見ながら、しばらく眠っていた。それからしばらく、書き物をした。チョコレートをかじりながら。5時からパイプオルガンのリサイタルがあるというので、大聖堂の中に入った。音の洪水の中にたゆたいながら、ステンドグラスの光の渦を眺めながら、なんて素敵なご近所だろう。あとどれほど、ここに暮らすか知らないけれど、ここにいる限りは、このすばらしさを、大切にしよう。

 

AUGUST 7, 2004  最高気候

空の高さ/色/透明度。雲の量/形/色/陰影。風の強さ/軽さ/匂い。光の強さ/色/肌触り。取り巻く音。

あらゆる条件が、完璧に揃った真夏の土曜日の午後。それは初夏のようでもあり、初秋のようでもある。夫は仕事があると言いコンピュータに向かっている。ならばわたしも、と、ソファで新聞などを読んでいたが、途中で投げ出し、ベッドに横たわる。流れ込む風でほどよく冷えたシーツが気持ちいい。窓の外を眺める。まるでオーブンの中のパンが膨らむみたいに、もくもく、もくもく、と、屋根の向こう側から、雲が現れる。そして通り過ぎていく。時折、思いついたように風がひゅ〜っと流れ込んでくる。インド綿の、さらさらとしたブランケットにくるまる。やがて仕事を終えた夫と、夕暮れの森に出かける。スズムシやコオロギが、コロコロ、チリチリ、ルルルルル……。まるで秋のような音。森を抜け出た先には大きな花屋さんがあって、すでにそこはオレンジ色。ハロウィーンの飾り付けが売られていた。まだまだ、秋には早すぎる。まだ今年は、海にも行っていないのに。

 

AUGUST 6, 2004  おとな

遥か大地を見晴るかす、広い窓持つレストランで。一人静かにランチタイム。

まるで大切な、生まれたてのなにかのように、白い布巾にくるまれて、出されるパン。

そのほのかな温かみを、指先が感じた瞬間の、ささやかな幸福感。

今日の風もまた、軽く涼しく、雲はぐんぐん流れていく。

わたしは果たしていつのまに、こんなに大人になってしまったろうと、不思議な思いでパンをちぎる。

 

AUGUST 5, 2004  猫

晩夏のように、寂しげな風が吹く日。飛行船のような雲が、飛行船のように、ゆっくりと流れていく。

大聖堂の裏にあるグリーンハウスは、もう閉まっていたけれど、花々は、そのままに在る。店先のブロックに腰掛けて空を見ていたら、白い靴下を履いたみたいな、黒猫がやってきた。「わたしは、ここの店番なのですよ」とでも言わんばかりにこちらを一瞥し、わたしの周りをぐるりと歩く。そうしておもむろに、3回ほど伸びをして、ゴロリと寝転がる。何を言いたいのか、今度はこちらにお腹を見せて、だらしなく横たわったあと、わたしの傍らにやって来て、背中を向けて座った。しばらくの間、二人で静かにそうしていた。

やがて店番は、何かを思いついたように起きあがり、ピンクの花の鉢植えに近寄っていった。と、花をムシャムシャと、食べ始めた。「ちょっと店番さん。商品を食べてしまって、いいんですか?」「わたしは、何をしてもいいんです」ペロリと舌なめずりをしながら、店番は振り返りざまに言った。

 

AUGUST 4, 2004  父親

昼下がりの茶藝館で、玉山烏龍茶を注文する。本を読む。しみじみと、芳しい香りを味わいながら。誰もいない店内で、しゅんしゅんと、湯の沸く音だけが小さく聞こえる。書き物をする。やがて家族連れがやってきた。靴を脱いで板の間に上がる。「まあ、なんてきれいなの?!」小さな女の子が調度品を見て声を上げる。「今日は、お前たちも箸を使って食べるんだよ」。そう言いながら、白飯と、餃子と、何か野菜の煮物のようなものを父親が頼む。慣れない手つきで、箸を持ち、珍しい味覚に神妙な顔つきで、料理を口に運ぶ子供ら。

ふと記憶が遡る。あれはわたしが3歳になるかならないかのころ。「美穂にナイフとフォークの使い方を教えてやろう」と、父はどこかのレストランへわたしを連れていった。そうしてパンケーキを注文し、食べ方を教えてくれたのだった。わたしは、大人になった気がして得意だった。家柄も財産も、何も持たぬ両親は、試行錯誤で家庭を築いてきた。今思えば、滑稽な背伸びも数多く。笑い話も数多く。しかしあのときの父はまだ30歳だったか、と思うと、なぜかしら、泣けてきた。

 

AUGUST 3, 2004  音

ぱんっ、と、皮が弾ける。

ころころころろろろろっ、と、豆が転げ落ちる。

ざわざらざわざら、と、笊を揺すれば。

無口な台所で、まるで音符のような青えんどう豆。

 

AUGUST 2, 2004  香る緑。

日曜日、買い物をさぼったつけは、月曜日に。やっぱり昨日、行くべきだった。と、曇天の空を見上げながら思う。けれど平日の、いくらかのんびりとしたスーパーマーケットで、一人いつもより時間をかけて買い物をするのは悪くない。普段とは違うものに目が留まることもある。瑞々しいミントの束、新鮮なサニーレタス、愛らしいキーライム……。今夜はそうだ。ポークをブレンダーで挽肉にして、それから冷凍庫のエビを解凍して、収納棚からライスペーパーやビーフンを取りだして、ベトナム風揚げ春巻きを作ろう。エビの頭は素揚げにしよう。ライスペーパーでは生春巻きしか作ったことはないけれど、何とかなるだろう。

ライスペーパーは湿らせるとべたべたするから、破れたりくっついたりしないように気を付けて。下準備はなんとかクリア。だけれど、揚げる段になって予想外のハプニングが! 油の中で、二つ三つがくっつき合って、引き離そうとしたら破れてしまい、しまった! パチパチはじく! あふれた中身を網ですくう。破れて焦げた失敗作は味見用。だけれど、その揚げたてパリパリの失敗作が、実は、おいしかったりもして。たっぷりのレタスとミントを添えて、テーブルに。額に汗をにじませながら、"BUON APPETITE!"

 

AUGUST 1, 2004  読み書き

金曜の夜から、今に至る日曜日の夕方までにしたことといえば。
夕べ、友人と夕食に出かけ、そのあと彼らを家に招いておしゃべりをした。外界との交流はそれくらい。
買い物にすら、いかなかった。買い物は、明日にしようと決めたのだ。だって雨が降っているから。
それにさっき、ワインのボトルをあけてしまって、もう出かける気分ではない。夕食は適当にすませよう。
友人が贈ってくれた日本の本が届いたのを、せっかくだから少しずつ、ゆっくりと読もうと思った。
なのに、ひたすら、吸い込まれるよう読み続けて、読み終わったのが、窓辺に積み重なる。
読んだ以外は、ひたすらに書いた。日本語を読むことの滑らかさ。日本語を書くことの滑らかさ。
だけれど、書くのは、とても面倒でじれったい作業。腑に落ちる文体が見つからないことの苛立ち。
今は書きたくないのを、これを書かねば先に進めぬ思いで書いているものに対峙している。
そのことをばかり、考えている。連ねた言葉の行く当ても知らず。

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