MAY 3, 2004 緑の匂い |
おとといの昼過ぎ、インドから戻ってきた。わたしが大西洋を超えているころ、父の病状が悪化した。 |
MAY 4, 2004 朝。 |
緑は朝風にゆらゆらそよぎ、 朝日は緑にさらさらこぼれ落ち、 ゆらゆら、きらきら。 24時間ののちには、福岡です。 1年半ぶりの日本です。 行ってきます。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 故郷 |
物心ついたときから、高校を卒業するまでの17年間、暮らしていた。 日本の、九州の、福岡市東区の、名島、千早、香椎のあたり。 懐かしいと言うよりは、やりきれない閉塞感。 さもなくば、喪失感。 空は同じように、広いのに。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 病院 |
父が運ばれたのは、香椎にある個人病院だった。その6階の、老人患者ばかりのフロア。 カーテン越しに、よぼよぼの、おじいさん二人。一人はニコニコ好々爺。一人は入れ墨、やくざに悪態。 14年間、意識のない夫を支え続けている妻、という女性もいて。14年間? 看護婦さんらのピンクの白衣。給湯室の洗面器。プラスチックの食器。便座のウォシュレット。嗚呼! |
MAY, 2004 FUKUOKA カルチャーショック |
病院のそばには、商店街や、ロイヤルホストや、ダイエーなどがある。 ちなみに、この京都風(?!)のメロンパンは、表面がまるでクッキーのように香ばしく、中身はフワフワ、とてもおいしかった。なんだか、極まっていたメロンパンだった。 |
MAY, 2004 FUKUOKA おそうじ |
欧州的デコラティブなインテリアがお好みの母。実家はヴィクトリア調の家具や小物、それにアートフラワーやら何やらかんやらに彩られて華やかだ。しかし、部屋を飾り立てるものでびっしりの部屋は、同時に埃をためやすいもの。きれい好きの母も、父の世話でここ数カ月、掃除に手が回らなかったようだ。かといって、わたしが掃除を受けて立つパワーもなく、ダスキンの「メリーメイドサービス」にお掃除を依頼する。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 何はともあれ、おいしいものはおいしい |
わたしにとっては、わずか10日間弱の日本滞在。だけれど、母はこの数カ月、父に付きっきりだった。 |
MAY, 2004 FUKUOKA ファイト! |
高校時代の通学路。 ファイト! ファイト! ファイト! ファイト! |
MAY, 2004 FUKUOKA 歳月 |
歳を重ねていくさまを、一瞬のうちに見る。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 進化するパン屋。 |
そのパン屋もまた、すっかり様変わり。 天然酵母のパンなどを置く、お洒落なベーカリーになっていた。 そして、見るからにおいしそうな、ケーキたちの群れ。 この国のケーキの、なんて几帳面で、端正で、規則正しいことだろう。 お見事。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 魚屋さん。 |
商店街の魚屋さん。 安くて新鮮な魚がたっぷり。 この一画を、ワシントンDCに持ち帰りたい! |
MAY, 2004 FUKUOKA モールにて |
昔は海だった香椎の浜に、イオンというショッピングモールができていた。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 何を見ても。 |
なにはともあれ福岡では、寿司と焼き肉を食べるのだ! と、あらかじめ、決めていた。 不謹慎というなかれ。たとえ父が病んでいようとも、わたしの命は漲っている。 然るに、母と妹と3人で、焼き肉を食べに行く昼下がり。とろけるようなカルビ、ホルモンに舌鼓。 お向かいには櫛田神社。「山笠があるけん、博多たい!」の、山笠に初夏の香り。 「お正月、お父さんと二人でここに来たのよね……」と涙ぐむ母。焼き肉が、消化不良を起こすよ。 これから先、しばらくは、こういう心の繰り返しだろうか。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 充実の食料品 |
妹と、天神に出かけた。岩田屋が新しくなっていた。「どこが不景気?」というくらい、きらびやかな街。 |
MAY, 2004 FUKUOKA 直通 |
すぐこの先に、ワシントンDCとか、バンガロールとかにつながる道が、あればいいのに。 わたしだけが走り抜けられる、秘密の道があればいいのに。 |
MAY 15, 2004 ひよ子 |
夫へのお土産に。好物のカステラ(福砂屋)や、パリパリ麺の長崎皿うどん、ひよ子などを買ってきていた。 「このお菓子、やわらかくて、おいしいねえ」 何もかも違うけれど、おいしいのなら、それでいい。のか? |
MAY 16, 2004 17年目の空蝉 |
14日夕刻、DCに帰り着く。15日朝、爽やかに目覚めたものの、午後から使いものにならなくなり、寝る。 |
MAY 17, 2004 いちご |
久しぶりのスーパーマーケットは、生鮮食料品売場の様子が違った。旬の果物が目立つところに並んでいる。 大粒で、形のよい、大きないちごをたっぷりと買ったので、いちごジャムを作った。 |
MAY 18, 2004 金柑 |
遠い昔、我が家の小さな庭先に、小さな金柑の木があった。 Kumquats。近所のスーパーマーケットで見つけた金柑。そもそもは、中国から来た果実。 黄金色の果実に惹かれて、カートに入れた小さなパック。洗って、そのままを頬ばり、噛む。 |
MAY 19, 2004 蝉だらけ。 |
夕暮れどき。風が心地よかったので、早めに帰宅した夫と散歩をする。 それにしても、街路は、蝉だらけ。 |
MAY 20, 2004 泉 |
触れれば溢れ出しそうな、その泉までの道。 いくつもの、塀や、柵で塞ぎ、辿り着けないようにする。 しばらくは、泉があることを、忘れている。 |
MAY 21, 2004 割り切れない数字 |
その響きを、どう表現したらいいのだろう。単調だけれど、ウワンウワンと鳴り響く、不思議な音。 「彼らは、わたしがまだ若かったころからそこにいて、17年間、姿を消していた。そして今、さまざまな思い出と共に戻ってきた。まるで、SF小説に拠らない、タイムマシンのように」 たとえば2年、あるいは5年の周期を持つ他の昆虫がいるとするだろう。 |
MAY 22, 2004 音。 |
またいつ、日本へ戻るともしれないから、尚更に大切な、週末。 |
MAY 23, 2004 FAR FAR AWAY |
映画の趣味が異なるわたしたち。 |
MAY 24, 2004 More than five thousand miles away |
今日もまた、蝉時雨の、夕暮れの、木漏れ日の、散歩道。 風のそよぎが、切りたての髪、襟足を滑り抜けて、ほのかに心地よく。 5000マイルの、その先で、 父がどんどん、死んでゆく。 |
MAY 25, 2004 東西南北の人 |
明日はまた、機上の人となりて。 東西南北の人になる。
「みちのくの母のいのちを一目見ん一目見んとぞただにいそげる (斎藤茂吉)」 かの時代の五百哩は、この時代の五千哩と等しいか。 |
MAY 27, 2004 エントランス |
幾つもの死を見送るエントランス。 父もまた、幾つものなかの、一つとなりて。 筆圧をこめてしたためる、死亡届の文字。 |
MAY 28, 2004 |
音楽を、とめよ。 旋律を、とめよ。 沈黙のなかに沸き上がるものをのみ、 両てのひらで、受け止める。 まるで水を掬うみたいに。 |
MAY 29, 2004 |
MAY 31, 2004 つばくらめふたつ、はりにゐて |
「のど赤き 玄鳥ふたつ 屋梁にゐて 足乳根の母は 死にたまふなり」 (またしても斎藤茂吉) |